本邦の慢性腎臓病(CKD)患者は増加傾向にあり、病態に直接アプローチする治療法の開発が喫緊の課題である。多価不飽和脂肪酸(PUFA)とその代謝物は慢性炎 症を主体とする病態形成に関わるが、近年脂質メディエーターを網羅的に解析することで単独で機能を持ち病態に関わる脂肪酸の特定が可能になった。 申請者は主要な脂肪酸代謝酵素の1つである12/15-リポキシゲナーゼ(ALOX15)の発現がマウスCKDモデル腎臓で増加していることや、ALOX15欠失マウスがCKD抵抗性を示すこと、そしてそのCKD抵抗性のフェノタイプにプロスタグランジンD2が関与していることを本研究費の初年度である昨年報告した(Clin Exp Nephrol. 2021)。これらの結果は脂質メディエーターがCKDの病態に関与することを示唆している。 今年度は、近年種々の疾患において病態改善との関連が報告されているω3系脂肪酸を生体内で合成可能なトランスジェニックマウスを用いて、ω3系脂肪酸がCKDの病態を改善し得るかの検証とCKDの病態を制御し得る脂肪酸がω3系脂肪酸群の中に存在するかを探索した。 ω3系脂肪酸を生体内で多量に合成することが可能なfat-1 TgマウスのCKDモデルを作成することで、腎組織における脂質メディエーターのプロファイル変化をリピドミクスの試行でで入手した。機能的脂質代謝物の同定のために特にω3系脂肪酸代謝物にフォーカスしたリピドミクス解析結果の評価を現在進めている。 また、ULK1ノックアウトマウスの解析を行い、CKDモデルが細胞内エネルギー状態の悪化を伴って増悪することも報告した。
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