多くの薬物は肝臓において代謝されるため、ヒト肝細胞を用いた安全性評価は創薬研究に必要不可欠である。すなわち、高機能なヒト肝細胞は新薬開発の効率 化に資する有用なツールとなり得る。近年、肝臓オルガノイド培養技術が開発されたが、その肝機能は低い。そこで本研究では、ヒト凍結肝細胞に匹敵する高機 能な肝臓オルガノイド培養技術を確立を目指した。三次元培養体である肝臓オルガノイドが抱える種々の課題を解消するため、二次元培養にて分化・成熟化を試 みた。 2021年度に実施した培養条件のスクリーニングにより、分化前の肝臓オルガノイドから大幅に肝機能が回復した肝細胞の作製に成功した。そこで、2022年度では、作製した細胞の詳細な機能解析を行った。成熟化の効率を評価した結果、肝細胞マーカーの陽性細胞率は90%以上の高い値を示した。したがって、本研究で開発した分化法は高い成熟度の細胞を均質に得らられることが示唆された。また、作製した細胞は、肝細胞の機能の一つであるグリコーゲンの貯蔵能を有していることが示された。遺伝子発現解析の結果、薬物動態試験に関わる遺伝子群の発現が増加した。最後に、医薬品の代謝に関わる主要な薬物代謝・抱合酵素の活性を測定した結果、ヒト肝細胞に近い水準であった。 本研究による汎用性の高い新規ヒト肝細胞モデルの創成は、新薬開発の加速化だけでなく、肝疾患の発症機序解明や肝細胞移植など幅広い分野に貢献することが期待される。
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