研究課題/領域番号 |
21K20725
|
研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
堀 英生 名古屋市立大学, 大学院薬学研究科, 講師 (90903526)
|
研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
|
キーワード | 糖尿病 / iPS細胞 / 血管内皮細胞 / 酸化ストレス / 血管デバイス |
研究実績の概要 |
まず初めに、ヒトiPS由来動脈性の血管内皮細胞を用いて糖尿病の血管障害モデルを作製するため、ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)、hTERT遺伝子導入不死化臍帯静脈血管内皮細胞(HUEhT-1)およびヒト大動脈血管内皮細胞(HACE)を用いて、酸化ストレスの産生増加が確認できるD-グルコース添加時の培養条件について検討を行った。D-グルコースの添加条件については、今までに報告のある血管内皮細胞を用いた論文を参考にして行ったが、各血管内皮細胞において酸化ストレスの産生増加は認められなかった。そのため、インスリン抵抗性の原因の一つとされるTNF-αを用いて同様な検討を行った。TNF-αでは、酸化ストレスの産生増加ならびに細胞生存率の低下が認められた。そのため今後は、TNF-αを用いて実験を進めるとともに、D-グルコースおよびTNF-αの両試薬を添加した際の酸化ストレスの産生並びに細胞生存率を検討する。 ヒトiPS細胞から動脈性の血管内皮細胞の分化では、一旦、当研究室で開発した方法に従い血管内皮前駆細胞(EPC)に分化したのち動脈性の血管内皮細胞へ誘導する予定であった。しかし、今回、使用する予定の細胞株では、EPCへ分化する際、分化誘導法の変更が必要となった。そのため分化誘導法について再度検討し、修正を行った。 血管デバイス(試作品)では、HUEhT-1を用いて培養条件(コーティング剤、細胞播種数な等)の検討を行い、静置培養では問題なく培養できることを確認した。しかし、培地を灌流すると細胞が剥離してしまうなどの問題点が解決できておらず引き続き血管デバイスの改良が必要である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
高血糖状態における酸化ストレスの産生増加条件について、血管内皮細胞を用いた過去の報告を参考にHUVEC、HUEhT-1およびHACEを用いて検討を行ったが、酸化ストレスの産生の増加が確認できなかった。その後、グルコース濃度、添加時間および酸化ストレス検出プローブを変更するなど検討するも酸化ストレスの産生を増加させる条件は確認できず、また、この実験に時間を要してしまい研究計画が遅れてしまった。 ヒトiPS細胞から、動脈性の血管内皮細胞を作製する過程では、ヒトiPS細胞からEPCに分化させた後、動脈性の血管内皮細胞に分化する予定であった。しかし、今回の研究で使用する細胞株では、EPCへの分化・誘導法の修正が必要となってしまったた。そのため、EPCから動脈性の血管内皮細胞への分化・誘導法の検討が行えていない。 血管デバイスでは、HUEhT-1を用いて血管内皮細胞の培養条件の検討を行い、静置培養の条件での培養については、目途が立ったものの培地を灌流する際に種々の問題を抱えており引き続き検討が必要である。また、血管平滑筋細胞との共培養法について検討が行えていない。
|
今後の研究の推進方策 |
ヒトiPS細胞から得られたEPCを用いて、動脈性の血管内皮細胞への分化・誘導を行う。分化・誘導には、主に低分子化合物並びに酸素濃度を調整することで検討を行い、血管内皮マーカー並びに動脈特異マーカーの遺伝子の発現にて分化並びに成熟の程度を確認する。また、先の実験から得られたTNF-αの添加条件を用いてHUEhT-1、HACEおよびヒトiPS細胞由来の動脈性の血管内皮細胞における酸化ストレスの産生およびその機序について比較する。さらに、動脈硬化の発症や進展に関与する接着分子であるEセクレチン、intercellular cell adhesion molecule-1(ICAM-1)およびvascular cell adhesion molecule-1(VCAM-1)の遺伝子およびタンパク質の発現についても比較しヒトiPS細胞から分化・誘導した動脈性の血管内皮細胞が、血管内皮障害モデルとして利用可能かについて検討を行う。 血管デバイスにおけるヒトiPS由来EPCから動脈性の血管内皮細胞への分化・誘導および成熟化の検討では、灌流速度ならびにシェアストレスの条件を検討し動脈性の血管内皮への分化に最適な条件を確認する。また、ヒトiPS細胞由来動脈性の血管内皮細胞とヒト血管平滑筋細胞との共培養についても血管デバイスで培養が可能か予備的実験を行うとともに、共培養が、動脈性の血管内皮細胞の成熟化に与える影響についても検討を行う。評価方法は、免疫染色法を用いて血管内皮マーカー並びに動脈特異マーカーのタンパク質発現を確認し行う。 一方、現在、開発中の血管デバイスを用いてEPCから動脈性の血管内皮細胞への分化・誘導および成熟化について検討を行う予定としているが、血管デバイスの開発が長引いてしまった場合は、当研究室で開発した開放型の灌流デバイスを用いて検討を行う。
|