本研究では、まず初めに我々の研究室で開発したヒトiPS細胞由来血管内皮前駆細胞(EPC)を用いて動脈様の血管内皮細胞への分化誘導条件について検討を行った。実際には、EPCを動脈様血管内皮細胞に分化誘導する条件としてコーティング剤、分化誘導因子等について条件検討を実施した。結果、動脈血管内皮細胞マーカーであるEPHB2およびNOTCH1の遺伝子発現がヒト初代培養細胞であるヒト臍帯動脈血管内皮細胞(HUAEC)と同等以上の発現とEphB2のタンパク質発現の増加が確認できる血管内皮細胞を作製することができた。一方、静脈血管内皮細胞マーカーであるNR2F2は、ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)に比べ遺伝子発現が低くHUAECと同等、かつ、タンパク質発現が、HUVECに比べ低下していた。以上のことからヒトiPS細胞由来EPCから動脈様の血管内皮細胞が作製できたと考えられる。 続いて、糖尿病下における動脈硬化の機序を再現できる血管モデルを作製するため、上記で作製したヒトiPS細胞由来動脈様血管内皮細胞を用いて、炎症性の反応が生じるかについて検討を行った。高血糖条件下では、炎症性の反応初期に起きるとされる活性酸素種(ROS)の産生増加は、確認できなかったものの、糖尿病患者で増加するとされるTNF-αを添加するとROSの産生増加と産生機序の一つであるNADPHオキシダーゼの遺伝子発現の増加が確認され血管内皮障害が生じる可能性が示唆された。さらに、動脈硬化が生ずる際に確認される接着分子による単球等のローリングが生じるかについて検討を実施し、接着分子遺伝子の発現増加とヒト単球細胞であるTHP-1のヒトiPS細胞由来動脈様血管内皮細胞への接着増加を確認することができた。以上のことから本研究では、動脈硬化初期段階を再現できるヒトiPS細胞由来動脈様血管内皮細胞が作製できたことが示唆された。
|