本研究の目標は、乳癌においてALDH1A3陽性癌幹細胞の非対称分裂を切り口に癌細胞の代謝不均一性が獲得される仕組みを明らかにすることによって、癌治療の大きな障壁となっている癌の不均一性を制御するための基礎的知見を創出することにある。2022年度は、癌幹細胞マーカーALDH1A3の発現と解糖系タンパク発現および解糖系能の関わりを非対称分裂において詳細に調べる研究に取り組んだ。その結果、解糖系能がALDH1A3陽性癌幹細胞の非対称分裂依存的に多様な様式で分配されることを明らかにした。加えて、この非対称分裂による解糖系能分配とその後の分裂後に獲得される解糖系能の不均一化との相関関係を示す結果を培養細胞実験レベルで明らかにした。従って、乳癌におけるALDH1A3陽性癌幹細胞の非対称分裂は解糖系能の高い癌幹細胞を維持しつつ、解糖系能の低い非がん幹細胞を新たに生み出すだけでなく、解糖系能の低い癌幹細胞や解糖系能の高い非がん幹細胞を生み出すことで解糖系代謝不均一性獲得の一因となっていることが示唆された。2021年度にはALDH1A3陽性癌幹細胞を蛍光タンパク質により追跡するレポーター細胞を樹立したことから、このALDH1A3陽性癌幹細胞の非対称分裂依存的な解糖系能の分配と解糖系能の不均一化過程を可視化・定量する研究へと繋がっている。また、我々は細胞極性分子PKCλが非対称分裂の制御に関わることを明らかにしていることから、この分子の関わりについても詳細についても調べていく予定である。これらの研究成果は日本薬学会143年会のシンポジウムにおいて発表し、現在論文投稿準備中である。
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