脳血管内皮細胞は、強固な結合を形成し、かつ種々のトランスポーターを発現しており、これらの機能によって血液中から脳実質側への物質の移行を厳密に制御している。そのため、in vitroで効果のみられた候補薬物を生体に投与した場合、BBBにより脳内に移行されないケースが多く、創薬プロセスの障害となっている。したがって、中枢神経疾患治療薬の開発においては、脳内移行性を包括するin vitro BBBモデルの開発が重要となる。これまでに我々は、iPS細胞由来脳血管内皮細胞を利用したin vitro BBBモデルの開発を試みてきたが、iPS細胞由来脳血管内皮細胞は薬物排出に重要なトランスポーターであるP-糖タンパク質(P-gp)の発現が著しく低いことが課題としてあげられる。そこで本研究では、P-gpの発現を制御する因子(液性因子、低分子化合物、転写因子)などを用いて、P-gpを高発現するようなヒトiPS細胞由来脳血管内皮細胞の作製を試みた。今年度は、特にP-gpの発現を上昇させる転写因子について解析を試みた。脳血管内皮細胞の分化や機能に関係する転写因子に着目し、臍帯静脈血管内皮細胞に候補因子をレンチウイルスベクターを用いて導入した。その結果、Sox18を導入した群でP-gpの発現上昇が観察された。そこで、Tet-Onシステムを利用し、時期特異的Sox18を発現するiPS細胞を作製し、脳血管内皮細胞への分化誘導を行なった。その結果、コントロール群と比較して、膜間電気抵抗値の低下は観察されなかったことから、Sox18を強制発現しても高いバリア機能は維持していることが明らかとなった。次に、各種遺伝子発現について解析した結果、Sox18を強制発現させることで、P-gpの発現が上昇した。以上の結果より、Sox18を発現させることで、脳血管内皮細胞の成熟化が促進される可能性が示された。
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