本研究では、申請者がごく最近発見した「半数体脊椎動物細胞における中心体喪失」が、発生過程における器官形成にどのような影響を与えるかを明らかにすることを目的とした。 中心体は紡錘体形成において中枢的な役割を果たすことから、まず、生細胞観察により二倍体胚と半数体胚の細胞分裂を観察した。二倍体胚では大半の細胞が分裂期を30分以内に完了していた一方で、半数体胚では約15%の分裂細胞が1時間以上分裂期に停滞しており、これらの分裂遅延細胞の約3割で細胞死が生じていた。また、アポトーシスマーカーであるactive caspase-3を可視化したところ、二倍体胚と比較して半数体胚ではアポトーシス細胞が胚全体で顕著に増加していたことから、半数体胚では広範な組織器官において分裂ストレスによりアポトーシス頻度が増加していることが示唆された。 この分裂ストレスが組織発生にどのように影響しているかを調べるため、分裂期チェックポイントを薬理的に阻害することで半数体胚の分裂期進行を改善したところ、分裂細胞の生存性が向上し、脳、目、体軸などの主要組織が肥大化した。このことから、半数体胚における分裂遅延は細胞生存性の低下および組織サイズの矮小化を引き起こすことがわかった。 さらに、半数体胚におけるアポトーシス経路を調べたところ、二倍体胚と比較して半数体胚ではp53タンパク質発現量が有意に上昇していることを突き止めた。このp53発現量上昇の発生不全への寄与を調べるために半数体胚におけるp53の発現を抑制したところ、アポトーシス頻度が低下し、また、組織サイズの矮小化が解消された。本研究結果から、分裂ストレスおよびp53依存的アポトーシスに起因した半数体胚の器官形成能低下が見出され、半数体胚における発生不全要因の一端が初めて分子レベルで明らかになった。
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