研究課題/領域番号 |
21K20740
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
水田 賢 京都大学, 医学研究科, 助教 (40909503)
|
研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
|
キーワード | 霊長類 / カニクイザル / 生殖細胞 / 卵母細胞 / 体外培養 / 再構成卵巣 |
研究実績の概要 |
ヒトを含む霊長類の生殖細胞の発生・分化過程では、マウスとは異なる制御機構が多く働いていると考えられている。しかしながら、霊長類の雌性生殖細胞の発生機構の解明には、胎児を対象とした研究が必要であるため、倫理的な問題を非常に多く有しており、詳細な研究はこれまでに殆ど実施されていなかった。そこで我々は、霊長類の生殖細胞の発生過程を体外で誘導・観察できる培養系の開発が必須と考え、これまでにカニクイザルとヒトの胎児の卵巣細胞から原始卵胞を誘導する体外培養系の確立に成功したが、この体外培養法における卵胞の誘導効率は生体と比して非常に悪い。そこで、本研究では培養条件をさらに改善し、高効率に卵胞を誘導可能な改良法を見出すことを目標としている。 令和4年度は、共同研究機関の滋賀医科大学 動物生命科学研究センターにおいて、胎生8週齢のカニクイザル胎仔の採取を定期的に行い、体外培養実験に使用するための卵巣の細胞採取・保存を実施した。カニクイザルの胎仔サンプルは極めて貴重であることから、マウス胎仔の雌性生殖巣を用いた予備実験を実施し、旋回培養や高酸素濃度環境下培養などの新たな培養条件が卵母細胞の誘導効率改善につながるかを検証した。その結果、これらの改良培養条件下では、既存の培養法に比して、卵母細胞と卵胞の誘導効率が有意に改善することが示された。次に、マウスによる予備実験で得られた結果を元に、カニクイザル胎仔の卵巣細胞に対して同様の実験を行なったところ、既存の培養手法に比して、カニクイザル生殖細胞の増殖と卵胞形成の効率に関して明らかな改善が認められた。また、培養後の生殖細胞に対して、組織学的解析(H&E染色・免疫染色など)と単一細胞レベルでの遺伝子発現動態の解析を実施し、生体内の卵母細胞と極めて類似した特徴を有していることを確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた、カニクイザル胎仔サンプルの採取を計画通りに実施しており、得られた胎仔卵巣細胞からの再構成卵巣の作成とその培養条件検討を順調に進めている。また、マウス胎仔の卵巣細胞を用いた予備実験により、卵胞の誘導効率を改善する条件を見出し、カニクイザルの再構成卵巣に対しても当条件下での体外培養実験を繰り返し実施した。さらに、この改良培養法で得られた再構成卵巣に対する解析をすでに開始していることから、当初の予定通りに遅延なく研究が進展していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き体外培養系のさらなる改善を試み、生体での卵胞誘導効率と同等になるまで、様々なサイトカインの添加などの培養条件検討を実施する予定である。また、さらなる培養条件の改良後に、培養したカニクイザル再構成卵巣内の生殖細胞および体細胞が正常に分化しているかを、組織学的解析と単細胞レベルの遺伝子発現解析により詳細に評価する計画である。また、改良した体外培養法の有用性をカニクイザル再構成卵巣で十分に確認したのちに、ヒト胎児の卵巣細胞から作成した再構成卵巣の培養にも適用することで、その体外培養法がヒト研究にも利用可能であるかの検討を実施する方針である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の実験遂行に必要な物品購入を年度内にすでに完了しており、また、研究計画上次年度に比較的費用のかかる実験を計画していたため、一部を次年度に繰り越すこととした。
|