R3年度は、マウスの再構成卵巣を用いて、旋回培養や高酸素濃度環境下培養などの種々の培養条件検討を実施し、これらの結果を踏まえて改良した培養条件が、マウス卵母細胞発生過程の体外再構成の効率改善に有用であることを見出した。また、この改良型培養法をカニクイザル再構成卵巣の体外培養に用いることで、生殖細胞の増殖と卵胞の形成効率が大幅に改善することが示された。 R4年度も、R3年度に引き続き、共同研究機関の滋賀医科大学 動物生命科学研究センターにおいて、胎生8週のカニクイザル胎仔の採取を定期的に行い、体外培養実験に使用するための胎仔卵巣由来細胞を保存した。R4年度の実験では、まず初めに、改良型培養法に使用する血清のロットチェック及びその濃度の至適化など、改良型培養法のさらなる調整を実施した。次に、改良型培養法の使用により、カニクイザル原始卵胞の高効率な体外作出が高い再現性をもって可能であることを確認した。カニクイザル再構成卵巣を3~24週間培養し、組織学的解析(H&E染色・免疫染色など)および単一細胞遺伝子発現解析による改良型培養法の評価を実施した。その結果、改良型培養法で得られるカニクイザル卵母細胞は、いずれの減数分裂期においても生体の卵母細胞に非常に近い組織学的特徴および遺伝子発現状態を有していることが明らかになった。 全研究期間を通して、開始当初の計画に凡そ沿う形で研究が進行した。R3年度には、マウス再構成卵巣を用いた予備検討を通じて、カニクイザル再構成卵巣にも適用可能な改良型培養法を開発した。R4年度には、改良型培養法のさらなる調整を行い、この培養法により生体と同等の特徴を有する卵母細胞を高効率に体外で誘導できることを確認した。これにより、本研究課題の目的であった、カニクイザル始原生殖細胞を高効率に卵母細胞へ誘導する体外培養系の確立に成功したといえる。
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