研究課題/領域番号 |
21K20742
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
徐 旻恵 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (20910201)
|
研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
|
キーワード | アミノ酸トランスポーター / SLC7A5 / がん微小環境 / がん免疫 / 免疫チェックポイント阻害薬 |
研究実績の概要 |
がん細胞は、他の細胞との様々な相互作用により、がん細胞が生存しやすい微小環境を作っており、がん微小環境では一般にがん免疫抑制側に傾いている。本研究は、がん微小環境のがん免疫制御におけるがん細胞型アミノ酸トランスポーターLAT1(SLC7A5)の役割を明らかにすることを目的として、LAT1阻害薬を用いて、がん免疫関連因子へのLAT1抑制の効果を検討した。 in vivoの検討において、4T1マウストリプルネガティブ乳がん細胞をBALB/cマウスに、CT26マウス結腸がん細胞をBALB/cマウスに、B16F10マウスメラノーマ細胞をC57BL/6マウスに、それぞれ皮下接種したシンジェニックマウスモデルを用い、LAT1阻害薬と免疫チェックポイント阻害薬である抗PD-1抗体の併用効果を検討した。2週間の投薬期間において、抗PD-1抗体は7日毎に腹腔内投与し、LAT1阻害薬は連日尾静脈から静脈内投与をおこなった。抗PD-1抗体およびLAT1阻害薬ともに、単独では低い効果が見られる用量に設定し、両者を併用したところ、顕著な相乗効果が得られた。抗CD8抗体を用いて、アログラフト腫瘍に浸潤する細胞障害性T細胞の数をFACSおよび免疫組織化学により定量したところ、併用群のみならず、LAT1阻害薬単独投与群においても細胞障害性T細胞の増加が見られた。T細胞誘引に関わる因子をELISA法およびサイトカインアレイで解析し、LAT1阻害によって変動する複数の因子を明らかにした。 さらに、LAT1阻害薬の作用は、アミノ取り込み阻害によるタンパク質合成低下によるのか、あるいは特定のシグナル系を介したものなのかを明らかにする目的で、in vitroで培養細胞をLAT1阻害薬で処理し、ポリソーム法およびピューロマイシン法により解析したところ、LAT1抑制による全般的翻訳低下が生じることが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究に必要なin vivoおよびin vitroの解析手法が確立でき、大きな困難もなく、研究が順調に進行している。研究初年度において、in vivoの3種のシンジェニックマウスモデルの実験で、LAT1阻害薬と抗PD-1抗体の有意な相乗効果を実証でき、LAT1阻害薬単独でもアログラフト腫瘍に浸潤する細胞障害性T細胞の数が増加することを、抗CD8抗体を用いたFACSおよび免疫組織化学により示すことができた。さらに、そのT細胞誘引に関わる因子について、LAT1阻害によって変動する複数の因子をELISA法およびサイトカインアレイ解析で明らかにできている。これらのLAT1阻害薬の作用の背景にある機序として、LAT1抑制によって全般的翻訳低下が生じることを、ポリソーム法およびピューロマイシン法により実証できた。当初の計画以上の進展が得られおり2年度目の研究によって、当初目的を十分達成できる見込みである。
|
今後の研究の推進方策 |
がん微小環境のがん免疫制御におけるがん細胞型アミノ酸トランスポーターLAT1(SLC7A5)の役割を明らかにし、本研究の目的を達成するために、今後以下の研究を推進する。 (1)シンジェニックモデルのアログラフト腫瘍におけるヘルパーT細胞の腫瘍へ浸潤におけるLAT1阻害薬の影響の検討。アログラフト腫瘍中のCD4+T細胞の浸潤の程度をFACSおよび免疫組織化学により定量して、CD4+T細胞の腫瘍への浸潤におけるLAT1阻害薬の効果を検討する。 (2)がん微小環境の構成細胞におけるLAT1の発現と関連因子発現の検討。抗LAT1抗体を用いた各アログラフト腫瘍の免疫組織化学的検討を行い、腫瘍血管内皮細胞やがん関連線維芽細胞(CAF)を含むがん間質細胞におけるLAT1発現を検証し、さらにLAT1阻害薬による間質細胞におけるLAT1発現への影響を明らかにする。間質細胞の同定は、特異的分子マーカーの免疫組織化学により行う。 (3)シンジェニックマウスモデルにおけるLAT1阻害薬と免疫チェックポイント阻害薬抗PD-1抗体の相乗効果の実証。LAT1阻害薬と抗PD-1抗体の併用により、抗腫瘍作用における相乗効果が得られることをin vivoで実証する。すでに検討した3種のシンジェニックマウスモデルに加えて、Pan02マウス膵臓がん細胞をC57BL/6マウスに皮下接種するシンジェニックマウスモデルを追加する。さらに、計4種のシンジェニックモデルにおいて、ヘルパーT細胞、TAM(腫瘍関連マクロファージ)を指標に、併用効果を検討する。 以上により、がん微小環境におけるアミノ酸トランスポーター制御によるがん免疫増強効果について、得られた成果を取りまとめ、成果を発表する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初購入を予定していた、サイトカン測定キットの購入費が少なく済んだため。また学会参加費、旅費が不要であった。こととしたため、未使用額が生じた。 本年度はがん微小環境についてin vivoの実験を計画しており、薬剤購入費として使用する。
|