研究課題
初年度はヴェネズエラ糞線虫(Strongyloides venezuelensis)感染に伴うマウス小腸組織の形態学的評価と、感染部位におけるタイト結合を中心とした細胞間接着関連タンパク質の発現変化を中心に検討を行った。まず形態評価に関しては、光学顕微鏡を用いた観察にてS. venezuelensisが分泌物を放出して自身の周囲にトンネル状構造を形成しながらマウス小腸組織に寄生していることを確認した。また、S. venezuelensis寄生部位周囲に炎症細胞浸潤は少なく、この寄生虫が小腸上皮に寄生する際に上皮細胞の破壊は伴わないことが示唆された。引き続いて、免疫組織化学によるタイト結合関連各種タンパク質発現について、S. venezuelensis感染マウスと非感染マウス間で比較を行ったが、光学顕微鏡レベルの観察では各タンパク質の発現について両者間に明らかな有意差を認めなかった。S. venezuelensisは小腸上皮細胞間に寄生することが報告されているが、この結果から、虫体の寄生・虫体からの分泌物放出に伴う小腸上皮細胞間のタイト結合の構造変化は局所にとどまり、広範な構造変化や構造破壊をきたさないことが考えられた。このため、走査型電子顕微鏡・透過型電子顕微鏡を用いた評価に切り替え、より微細な形態変化を明らかにする方策とした。現在はS. venezuelensis感染マウス小腸組織の厚切パラフィン切片を材料とした走査型電子顕微鏡観察により、薄切標本では困難であった寄生虫-周囲小腸細胞の位置関係の立体的評価をおこなっている。
3: やや遅れている
当初予定していた光学顕微鏡を中心とした観察では細胞間結合発現変化が明らかにできず計画からはやや遅れているが、今後は電子顕微鏡により超微形態レベルの変化を捉えることで寄生虫分泌物による細胞間結合の構造変化を明らかにしていく。
光学顕微鏡レベルでは虫体と小腸細胞の接触面とその部分の細胞間接着の構造変化の評価は困難であることが判明したこと、また、薄切した検体では虫体と周囲小腸細胞との立体的な位置関係の評価は困難であったことを踏まえて、今後は、走査型電子顕微鏡・透過型電子顕微鏡を用いた観察を併用して研究を進める。これにより、光学顕微鏡レベルで評価不能であった、寄生虫感染部位における細胞間接着の構造変化を詳細に評価検討する。また、虫体周囲のトンネル状構造を形成しているS. venezuelensisの分泌物(E/S protein)の主成分であるTIL (trypsin inhibitor like) domain containing adhesion proteinsに対する抗体を作製し、免疫電顕で超微形態レベルで観察することを検討している。また、寄生虫-小腸細胞の関係性を立体的に明らかにするため、厚切パラフィン切片を材料とした電顕による観察も行っている。
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Histochemistry and Cell Biology
巻: 157 ページ: 359-369
10.1007/s00418-022-02074-4