研究課題/領域番号 |
21K20750
|
研究機関 | 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究 |
研究代表者 |
東田 怜 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究, 生命創成探究センター, 特任研究員 (10908122)
|
研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
|
キーワード | 構造生物学 / センサータンパク質 / 生命金属 |
研究実績の概要 |
走化性は、細胞や細菌が誘引物質あるいは忌避物質の濃度勾配に対して方向性をもって移動する現象である。本研究は代表的な生体内シグナル伝達系の1つである走化性制御系、中でも酸素分子をシグナル分子とする走化性制御系を研究対象とすることで、酸素センシング、及び酸素分子応答時シグナル伝達反応の分子機構を原子レベルで解明することを目的としている。酸素センサータンパク質HemATは、CheA/CheWと三者複合体を形成することで、細菌の酸素に対する走化性制御を担っている。しかし、酸素の感知に伴ってHemATまたはHemAT/CheA/CheW三者複合体内でどのような分子構造変化が起こり、走化性制御をしているかは明らかとなっていない。 2021年度は、各構成タンパク質の結晶を得ることに成功し、一部タンパク質に関しては位相決定まで進めることができた。また三者複合体構造についてクライオ電子顕微鏡よる単粒子解析を行った結果、低分解能構造を得ることに成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①HemATの結晶構造解析を試みた。この際、タンパク質自体の熱安定性が高く結晶化に適していると考えられる複数の好熱性細菌 (Bacillus smithii、Aeribacillus pallidus、Parageobacillus thermoglucosidasius)由来HemATを用いて結晶化を試みた。まず、結晶化の妨げになると考えられる柔軟性が高い末端領域を切除したHemATのプラスミドを作成し、大腸菌による発現系の構築及び、精製を行った。その後、調製したサンプルを用いて各条件下(酸化型、酸素結合型、還元型)で結晶化スクリーニングを行ったところ、各状態の結晶を得ることに成功した。 また、CheA、CheWについてもそれぞれ結晶化を試みた。その結果、一部ドメイン欠損型Che Aと全長型CheWの結晶をそれぞれ得ることに成功した。CheWについては、SPring-8 BL44XUにてX線回折実験を行い、得られた回折データを用いて位相決定に成功した(分解能1.93 Å)。より高分解能構造を得るために、抗凍結剤の最適化を進めている。 ②HemAT/CheA/CheW三者複合体の構造情報を得るために、クライオ電子顕微鏡を用いた複合体構造解析を行った。グリッド作成条件の最適化、Topazによる粒子拾い出しを行い、2D classificationを行ったところ、良好な結果が得られた。そこで、3D classification、精密化を行ったところ、分解能7.36 Åでの三者複合体構造を得ることに成功した。今後、より高分解能構造を得られるように、準備を進めていく。さらに、複合体における各構成タンパク質の結合比について得られたモデルが正しいか検討していく。 以上のことから、本研究課題はおおむね順調に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでに得られている結晶の構造解析を進めていくと同時に、高分解能構造が得られるように、結晶化条件の条件検討や抗凍結剤の最適化作業を行っていく。 クライオ電子顕微鏡については、低分解能であると考えられる理由として、CheAの一部ドメインが持つ柔軟な領域が分解能向上に支障をきたしている可能性が考えられたため、結晶と同様に一部ドメイン欠損型を用いて、再度測定することで、高分解能構造での構造解析を目指す。 また、今後得られる構造情報をもとに、酸素センシングやシグナル伝達に関与しているとされるアミノ酸残基を特定し、一連の変異体を作成する。野生型と作成した変異型を用いてCheA自己リン酸化活性、ITC、NMR測定を行っていくことで、走化性シグナル伝達の詳細な分子機構解明を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響により、当初参加予定であった学会に参加できず、測定についても現地に赴くことができなかったため、次年度使用額が生じた。 次年度における使用計画として、得られた研究成果を発表するために参加できなかった学会に参加するとともに、前年度より多く現地測定を行なっていく予定である。
|