SGK1リン酸化酵素はマウス胚において内皮細胞特異的に発現し、Sgk1欠損マウスは血管発生異常のため胎生致死となるが、内皮細胞におけるSGK1の上流・下流シグナル伝達経路はほとんどわかっていない。そこで本研究では、SGK1の血管内皮細胞における上流および下流シグナル伝達経路を同定し、血管発生制御および成熟機能調節におけるSGK1の機能様式と意義を明らかにすることを目的とした。 SGK1上流のシグナル伝達経路については、マウス・ヒトを含む生物種のSGK1遺伝子周囲ゲノム領域における種間保存性、クロマチン開放性(DNase-seq)、転写制御分子相互作用(RNA Pol II・p300)、ヒストン修飾(H3K27Ac・H3K4me1)などをin silico 解析を行った。さらに、トランスジェニックマウス胎仔lacZレポーターで検証を行うことによって、近位(転写開始点近傍)と遠位(500kbp上流)に内皮細胞特異的転写活性を持つエンハンサーを同定した。また、ChIPやluciferaseレポーターを用いた解析によってエンハンサー領域を数百bpまで絞り込み、両エンハンサーに共通して存在するETS転写因子コンセンサス結合エレメントが転写活性に必須であることを明らかにした。 SGK1下流のシグナル伝達経路については、活性欠損型・恒常活性型SGK1を発現させた培養内皮細胞のリン酸化プロテオーム解析を行い、内皮細胞制御や心血管発生に重要なことが知られる因子を含む複数の新規基質候補を同定し、同定した新規SGK1基質の機能解析を進めた。新規基質には内皮細胞制御や心血管発生に重要なことが知られる因子も含まれるが、SGK1によるリン酸化・活性制御の意義は全く不明なものが大部分を占めていた。SGK1がこれらの因子をリン酸化することでどのような生命機能に関与しているかを明らかにすることは今後の研究課題である。
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