研究課題/領域番号 |
21K20757
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研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | HUVEC / SARS-CoV-2 / CD38 / 低酸素症 / ミトコンドリア障害 / IL6+IL6R / LPS+IL6R |
研究実績の概要 |
この研究では、低酸素再酸素化およびミトコンドリア酸化ストレス条件下にあるヒト臍帯血管内皮細胞(HUVEC)細胞株を用いて、SARS-CoV-2 を感染させた内皮細胞の活性化と機能障害の機構を明らかにすることが目的である。 HUVECにSARS-CoV-2を感染させても(multiplicity of infection MOI=0.1)、感染後72時間まで培養上清中にウイルスは検出されなかった。又、細胞中IL-6、低酸素マーカーHIF-1a、CD38、ミトコンドリア障害マーカーOPA1、DRP1のRNA量に変化はみられなかった。さらに低酸素再酸素化(CoCl2投与)およびミトコンドリア酸化ストレス(ドキソルビシン投与)条件下にHUVECを培養し、SARS-CoV-2を感染させてもウイルスの複製は見られなかった。 SARS-CoV-2はHUVECに感染しなかったので、非活性内皮細胞ではなく、活性化内皮細胞にSARS-CoV-2が感染するのではないかとの仮説を立てた。そこでIL6+IL6R又はLPS+IL-6RでHUVEC細胞を刺激した(Kang et al, 2020)。HUVECはIL6+IL6R又はLPS+IL6Rの刺激後6時間でIL-6、VCAM-1とE-Selectin RNA量(内皮細胞の活性化マーカ)が上昇した。刺激後72時間でIL-6のRNA量が低下したが、CD38とHIF-1a 、OPA-1, DRP-1のRNA量が上昇した。そこでHUVEC細胞はIL-6+IL-6R又はLPS+IL-6Rの刺激で活性化され、72時間後、CD38と低酸素とミトコンドリア障害状態が生じていると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究においては当初予測したのは低酸素再酸素化およびミトコンドリア酸化ストレス条件下でSARS-CoV-2 ウイルスが感染すると血管内皮細胞であるHUVEC細胞株の機能障害が増強されることであった。しかし、CoCl2とドキソルビシン投与ではHUVEC細胞はSARS-CoV-2ウイルスに感染するようにはならないことが判明した。一方、内皮細胞の活性化と機能障害の機構を明らかにするため、IL6+IL-6R又はLPS+IL-6RでHUVECを刺激した結果、HUVECはこれらの刺激に反応し、低酸素再酸素化又はミトコンドリア酸化ストレスに伴う分子の発現を示したことから、これらの刺激が代用になると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
1)実験を繰り返し、VCAM-1, E-Selectin, ミトコンドリア障害関連マーカーのRNA発現量を確認する。又、IL6+IL-6R又はLPS+IL-6Rの刺激によるHUVEC細胞のSARS-CoV-2感染感受性の変化を調べる。 2)ELISA又はビーズアレイアッセイなどを使い、上清中のサイトカインタンパク量を測量し、Western blotでCD38, HIF-1a, ミトコンドリア障害関係のマーカーのタンパク発現を解析する。 3)アピゲニン、ルテオルニジン、siRNA ノックダウンなどのCD38 阻害剤 でCD38分子の役割を抑制して、CD38の内皮細胞における機能を明らかにする。 4)SARS-CoV-2感染サル組織を用い、サイトカインとCD38、HIF-1aとミトコンドリア障害関連マーカーのRNA量とタンパク量を測量し、SARS-CoV-2感染させたサルの細胞の活性化とミトコンドリア障害、低酸素症を推定する
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次年度使用額が生じた理由 |
現時点までHUVEC細胞はRNA量の結果でIL-6+IL-6R又はLPS+IL-6Rの刺激で活性化され、72時間後、CD38と低酸素とミトコンドリア障害状態が生じていると考えられた。次年度ではIL-6+IL-6R又はLPS+IL-6Rの刺激での低酸素とミトコンドリア障害状態をより明らかにしてELISA又はビーズアレイアッセイなどを使い、上清中のサイトカインタンパク量を測量し、Western blotでCD38, HIF-1a, ミトコンドリア障害関係のマーカーのタンパク発現を解析する。また、CD38 阻害剤 でCD38分子の役割を抑制して、CD38の内皮細胞における機能を明らかにする。そのため、必要な試薬とプラスチック培養容器を購入する目的である。
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