肺炎球菌は先進国の死因の中核を占める肺炎の原因菌として広く認知されており、近年多剤耐性を持った肺炎球菌の蔓延が臨床現場で大きな問題となっている。多剤耐性肺炎球菌感染症に対する治療法を確立させるためには薬剤耐性機構の解明及び新規抗菌剤の標的の発見が喫緊の課題となっている。多剤排出ポンプによる細胞外への薬剤輸送はグラム陰性菌の多剤耐性化に直接寄与することが広く知られているが、病原性が高い肺炎球菌を含めたグラム陽性菌の排出ポンプの役割については研究が進められていない。多剤排出ポンプは抗菌薬等の異物の他、生理的基質を輸送する役割も担っており、細胞機能の制御において排出ポンプが果たす役割を解明することも重要な課題である。 本研究ではまず各排出ポンプを過剰発現させた肺炎球菌のライブラリを作成し、薬剤感受性試験を行うことで肺炎球菌の薬剤耐性に関連するポンプ因子を同定した。同定された因子のうち、ABCトランスポーターであるPatABは既知の多剤排出ポンプであり、本研究でも構造が異なる複数の抗菌薬に対する耐性化に寄与していることが明らかとなったほか、抗菌薬バシトラシン耐性に関与するABCトランスポーターBceABについても過剰発現株の耐性化を確認した。また本スクリーニングでは既知の多剤排出ポンプの他に薬剤耐性化への関与が報告されていないABCトランスポーターを同定することに成功した。このABCトランスポーターを精製し、ATPアーゼ活性の測定を行ったほか、現在構造解析手法を用いて基質輸送メカニズムの解明に取り組んでいる。
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