研究課題/領域番号 |
21K20764
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
池上 一平 札幌医科大学, 医学部, 助教 (80837021)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | Bob1 / Tfh細胞 / メモリーTfh細胞 / 免疫記憶 / 液性免疫 |
研究実績の概要 |
自己免疫疾患やアレルギー疾患などの免疫難病の病態背景として抗原特異的抗体の産生異常があるため、病態解明に向けてこの機構に着目した研究が多角的に行われている。研究代表者(池上)の所属する研究室はこれまでにBob1転写共役因子がCD4陽性エフェクターヘルパーT(CD4+T)細胞群の中で、抗原特異的抗体の産生機能を司る濾胞ヘルパーT(Tfh)細胞に高発現していることを同定し(Yamashita K. et al, Eur. J. Immunol., 2016)、Bob1の機能的意義に着目して研究を行っている。Bob1は、Tfh細胞の他に抗原特異的抗体の産生に寄与するB2細胞に発現していることから、本研究ではCD4+T細胞特異的Bob1欠損(Bob1 CD4KO)マウスを新たに作出した。2021年度はこのBob1 CD4KOマウスを用いて、Tfh細胞の抗体産生誘導機能と免疫記憶機能におけるBob1の役割を検討した。液性免疫応答について解析した結果、Bob1 CD4KOマウスでは抗原特異的な血清抗体価が有意に低下していた。さらにBob1が、Tfh細胞の数的制御ならびに免疫チェックポイント分子発現制御に関与している事実が明らかとなった。これらの結果をまとめ、Tfh細胞の抗体産生制御機構におけるBob1の機能的役割を学会報告した(The 50th Annual Meeting of The Japanese Society for Immunology, 2021年12月)。2021年度の各種検討より外来抗原の再投与時期に液性免疫応答の変化が顕著だったことから、2022年度はこの時点に焦点を絞り、Tfh細胞における免疫記憶機構とBob1との関連を解明していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CXCR5陽性PD-1陽性のCD4+T細胞がTfh細胞と定義されているが、この集団には液性免疫応答の制御に関わる濾胞制御T(Tfr)細胞が混在し、Tfr細胞はFoxP3転写因子を発現している。そのため、Tfh細胞、Tfr細胞を区別して解析を行うために、FoxP3-GFP-DTRレポーターマウスとBob1 CD4KOマウスを交配して、FoxP3-GFP-DTR Bob1 CD4KOマウスを作出した。この個体を用い、得られた結果を関連学会にて報告することができたため、2021年度は予定通り研究を進展できたと評価している(演題名: Bob1 regulates T follicular helper cells to establish specific humoral immunity. 発表学会: The 50th Annual Meeting of The Japanese Society for Immunology, 2021年12月)。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度の検討よりBob1 CD4KOマウスは外来抗原の単回投与よりも複数回投与で液性免疫応答の有意な変化を認めた。そこで2022年度は、Tfh細胞が介在する免疫記憶機構にBob1がどのように関与しているのかを解明し、2021年度の結果と合わせて関連する海外雑誌で報告したい。免疫記憶機構の解析方法は2021年度に既に検討を重ねており、養子免疫モデルにて本研究を推進することとする。そのためにBob1 CD4KOマウスにOT-2 TCR遺伝子改変マウスとCD45.1・CD45.2コンジェニックマウスを交配し実験に必要な遺伝子改変マウスの作出を進めている。Tfh細胞におけるBob1の役割を検討する本研究により、Tfh細胞の免疫記憶機構が明らかになることで、慢性的な遷移を辿る免疫アレルギー疾患の病態理解や、感染症への生体防御およびその予防に用いられるワクチン接種の効率化に有益な情報が得られると考える。これらマウスモデルより得られた結果をヒトでも解析できるよう、ヒト臨床検体におけるBob1発現を評価するシステム構築にも着手していく。
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