近年、アフリカにおいてアルテミシニン耐性熱帯熱マラリア原虫の出現および拡散が報告されている。アルテミシニン耐性に関連するPfKelch13の変異は複数報告されているが、アフリカではアジアで主に報告されているC580Yとは異なる、A675V、C469Y(いずれもウガンダ共和国)、R561H(ルワンダ共和国)がそれぞれ独立して認められている。これらの変異によるアルテミシニン耐性機序を解明するため、本研究ではCRISPR/Cas9による熱帯熱マラリア原虫のゲノム編集と、それを用いた表現型解析を行った。また、ウガンダ共和国で得られた複数のアルテミシニン耐性原虫株を用い、既知の変異に併存して耐性度を高める因子の探索を行った。 ウガンダ型アルテミシニン耐性変異(A675V、C469Y)はヒト症例において明らかなin vivo耐性をもたらすが、これらを導入した標準培養株は明確なin vitroアルテミシニン耐性を示さず、何らかの背景因子が耐性に関わると考えられる。そこでウガンダの患者由来原虫をクローニングして耐性変異の導入を試みたが、導入効率が極めて低く、変異原虫を培養系で維持することは困難であった。同時に耐性フィールド株の全ゲノム解析を進めたところ、PfKelch A675Vを有する集団の中で特に耐性度の高いものに見られる新規の変異(X)を見出した。Xとともに既知の耐性変異を導入した原虫株を作製し、アルテミシニンや他の抗マラリア薬への感受性、培養系における増殖効率、生殖母体形成能などを解析中である。今後、成果を英文論文にまとめて公表する予定である。
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