研究課題/領域番号 |
21K20766
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研究機関 | 公益財団法人かずさDNA研究所 |
研究代表者 |
中嶋 隆裕 公益財団法人かずさDNA研究所, 先端研究開発部, 特任研究員 (90910943)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | アレルギー / 気管支喘息 / 脂質代謝 / 病原性T細胞 / 2型自然リンパ球 / Th2 / IL-5 |
研究実績の概要 |
本研究は脂質代謝によるT細胞の分化制御機構に着目し、我々が以前同定した病原性Th2(Tpath2)細胞および2型自然リンパ球(ILC2)などの喘息を誘導する病原性細胞特異的な脂質代謝機構を明らかにし、脂質代謝によって免疫機能を制御することを目的とした。本年度はDe novo脂肪酸合成経路による病原性細胞の機能制御について解析を行った。予備的実験結果を参考に、脂肪酸合成の律速酵素であるACC1のコンディショナルノックアウトマウスおよび阻害剤を用いて実験を行った結果、以下の新たな知見を見出した。
1. De novo脂肪酸合成によるIL-5産生の制御機構:我々はACC1阻害剤、T細胞特異的およびタモキシフェン誘導型CreリコンビナーゼシステムによってT細胞からACC1を抑制・ノックアウトすることでメモリーTh2細胞やILC2の分化に影響が出るかを検証した。その結果、いずれにおいても細胞のIL-5産生が著しく抑制されることが示された。さらに細胞の代謝変化を解析した結果、Tpath2によるIL-5産生には十分な量の脂肪酸に加えて解糖系の十分な活性化が必要であることを見出した。
2. T細胞特異的ACC1欠損マウスにおける喘息病態の抑制:1で明らかになったde novo脂肪酸合成依存的なIL-5産生機構が喘息病態に影響するかをT細胞特異的にACC1を欠損するコンディショナルノックアウトマウスを用いて検証した。IL-33/papain/OVA+Alumなど様々なモデルで気道炎症を誘導した結果、いずれにおいてもコントロールに比べACC1欠損群のST2+CD4T細胞が産生するIL-5が減少し、肺胞洗浄液中の好酸球を含む細胞数が著しく減少した。また、肺組織のHE染色像では気管支周囲の炎症の減弱と炎症細胞の減少を認めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究概要の1において、Th2細胞のde novo脂質代謝依存的なIL-5産生機構について解明した。特にACC1はde novo脂肪酸合成に加え解糖系の活性化を制御することでIL-5産生をコントロールしていることが示された。また概要2において、T細胞の脂質代謝が喘息治療にターゲットになりうる知見を得ることができた。また、実績に示した概要に加えてTh2細胞の脂質代謝がIL-5以外の複数のサイトカイン産生を制御していること、さらにその制御機構はIL-5のものとは異なることを示した。これらの成果から2021年度の目標である細胞特異的ACC1欠損マウスを用いた喘息病態への影響を明らかにすることができ、概ね予定通りの進展状況である。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度はこれまでの知見を基に、以下の推進方策にしたがって研究を進めていく。
(1)病原性T細胞/ILC2のIL-5産生を制御する具体的な脂質代謝物の同定:2021年度の知見を基に、病原性T細胞/ILC2のIL-5産生に必要な脂質代謝物の同定を目指す。肺組織および病原性細胞のリピドミクス解析により候補代謝物を絞り込み、CRISPR/Cas9システムによる対象の合成に必要な制御遺伝子の欠損、培養時に候補脂質代謝物の添加などを行うことで病原性T細胞/ILC2誘導能を評価する。 (2)喘息患者由来の病原性細胞および脂質代謝物の解析:2021年度に明らかにしたACC1によるIL-5の産生制御機構、および上記(1)において絞り込んだ脂質代謝物がヒトの細胞や代謝物と共通であるかを検証する。また、ACC1あるいは下流の代謝因子の阻害剤を用いてどの薬剤がより病原性を抑制するのに有効であるかを細胞の脂質・代謝プロファイルの変化を含め検証する。
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