研究課題/領域番号 |
21K20787
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
Yeh Tzuーwen 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 免疫研究部, リサーチフェロー (40904389)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | IFN-I / Eomes陽性Th細胞 / 神経変性 |
研究実績の概要 |
I型インターフェロン(IFN-I)は、ウイルス感染時で増加する核酸成分を、センサーが認識することで産生され、抗ウイルス因子である。IFN-Iシグナルが過剰に亢進し炎症反応が生じ、遺伝性のインターフェロノパシーや全身性ループスエリテマトーデス(SLE)では、全身症状に加えて中枢神経症状を呈する。ただし中枢神経系でIFN-Iの過剰産生に至る分子機序や、IFN-Iの過剰産生が引き起こす中枢神経症状の病態形成機序は不明である。 MSはCNS内に浸潤したミエリン自己反応性Th細胞が、髄鞘を攻撃することで脱髄を生じる自己免疫疾患であり、これを再発寛解型MS(RRMS)という。患者の一部では、進行性の神経細胞障害が生じる病態へと移行することが知られており、神経変性を伴うMS病態を二次進行型MS(SPMS)と呼ぶ。RRMSに関わる病原性T細胞を制御するNR4A2のT細胞特異的欠損マウスにEAEを誘導すると、初期の病態が消失し、遅れて新たなEAE病態が出現することを明らかにした。この後期EAE病態の本態は、転写因子エオメスを発現するTh細胞(エオメス陽性Th細胞)による神経細胞障害であり、SPMSに相当することが示されている。 CNS内に浸潤したエオメス陽性Th細胞は慢性炎症環境に長期間晒されることで誘導されるが、その生成機序は不明である。筆者らは最近、IFN-IがTh細胞のエオメス発現を直接誘導する活性を持つことを見出した。多くの神経変性疾患ではグリア細胞のIFN-I産生増加を伴うが、IFN-Iの過剰産生の原因が何か、過剰産生したIFN-Iがどのように神経細胞を障害するか、何も不明である。本研究では、複数の遺伝子改変マウスを組み合わせて、エオメス陽性Th細胞依存性の神経変性病態形成にIFN-Iの過剰産生が及ぼす影響を解析し、免疫依存性の神経変性病態における神経炎症の作用機序の全容解明を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者らはin vitro培養系にIFN-Iを添加することで、Th細胞のエオメス発現を直接誘導する活性を持つことを見出した。 生体内のIFN-I過剰産生によるインターフェロノパシー相当病態がどのような機序で生じるかを、特にCNS内の病態形成機序に主に解析するために、全身性あるいはCNS限定的にIFN-I産生を過剰産生する遺伝子改変マウス、およびIFN-I受容体欠損マウスを交配して、エオメス陽性Th細胞の生成を中心に検討を行った。全身性IFN-Iを過剰産生するTrex1欠損マウスのCNS、脾臓、リンパ節内のエオメス陽性Th細胞の頻度をフローサイトメーターで測定した結果、Trex1欠損マウスの各組織のエオメス陽性Th細胞が、対照マウスと比べて有意に増加していることがわかった。また、CNS内エオメス陽性Th細胞頻度の増加の程度は、脾臓、リンパ節における増加に比べて有意に高く、CNSがIFN-Iの過剰産生によるエオメス陽性Th細胞の生成に、より適した環境であることがわかった。さらにこのエオメス陽性Th細胞の増加は、Trex1欠損マウスをIFN-I受容体欠損マウスと交配させることで、CNS、脾臓、リンパ節内のエオメス陽性Th細胞頻度が正常レベルに回復した。一方、ミクログリアのIFN-I産生を亢進させるCNS限定的にIFN-I過剰産生を誘導するマウスが、CNS内のエオメス陽性Th細胞を測定した結果、対照マウスより増えていることがわかった。以上のことから、全身性あるいはCNSに限定したIFN-Iの過剰産生により、Th細胞のエオメス発現が誘導されることと、CNSがエオメス陽性Th細胞の生成に促進的な環境を提供していることが明らかとなった。一連の結果は、当初予想していた結果とよく相関しており、研究は順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
申請者が所属する研究室では、 EAE後期にエオメス陽性Th細胞によるグランザイムB産生を介した神経細胞障害が生じること、これが二次進行型MSに相当する神経変性病態からなることを明らかにした。一方、これまで複数のIFN-I過剰産生マウスでは、Eomes陽性Th細胞が増加することが明らかとなったことから、in vitro 培養系へのIFN-I添加によるマウス脾臓Th細胞のエオメス発現、あるいはTrex1欠損マウス由来形質細胞用樹状細胞(plasmacytoid DC; pDC)と、正常マウスあるいはIFN受容体欠損マウス由来の脾臓Th細胞を共培養した後のエオメス発現が増加するかどうかを解析し、Th細胞のエオメス発現に対するIFN-Iの直接効果の有無をあきらかにする。さらにこのようなIFN-I過剰産生環境で生じるエオメス陽性Th細胞が、グランザイムB産生能を獲得するか、神経細胞障害能を獲得するか、CNSの病的変化とどのように関わるかをそれぞれ解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、主に上記のマウスを用いたin vitroの培養実験やフローサイトメーター解析を中心に研究を進めたため、相対的に大掛かりな実験系を必要としなかった。次年度は、上記の各条件で誘導したT細胞のレパトア解析や網羅的な遺伝子発現解析を行うことで、IFN-I依存性に生じるエオメス陽性Th細胞の詳細な性状解析を進めるとともに、CNSに生じる病態との関連を解析することを予定している。同時にsiRNAや抗体による介入などのin vivo実験を中心に研究を進める予定であり、これらの実験に必要な実験用試薬、および実験器具を購入する。
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