前年度までにin vitroにおいて弱酸性化させた細胞外液が癌細胞の抗がん剤耐性能を変化させることおよびマウス皮下腫瘍移植モデルにおいて殺細胞性抗がん剤に中和製剤を同時に投与することで殺細胞性抗がん剤の腫瘍増殖能が減弱することを明らかにした。 本年度は弱酸性環境がもたらす抗がん剤耐性能増強メカニズムの解析を行った。その際に可逆的な反応を誘導することが示唆されたため、癌細胞株を弱酸性培養液 (pH6.8)下で培養した後に中和製剤を投与し培養液pH濃度を変化させた場合に誘導されるAutophagyおよびSenescenceマーカーのタンパク質発現の変化に着目した。弱酸性培養液中の癌細胞はAutophagyおよびSenescenceマーカーの発現を強く認めたが、その後pH濃度を調整した培養液ではそれらマーカーの発現が減弱しており、細胞株の可塑性が示唆された。以上のことから、弱酸性培養液を中和することで、癌細胞のAutophagy能力およびSenescenceの抑制が行われることを確認した。 続いて細胞外液の弱酸性化における遺伝子変化を検討するため弱酸性培養液(pH6.8)と中和した培養液(pH7.4)で培養した癌細胞のtotal RNAを抽出し、次世代シーケンサーを用いたトランスクリプトーム解析を行った。Gene Ontorogy解析を行ったところAutophagy、Senescence関連遺伝子だけでなく、血管内皮細胞関連遺伝子の発現が関与していることが示唆された。さらに発現変動遺伝子解析を行ったところ、遺伝子Xの発現が大きく変動していたことが明らかになった。当院の手術摘出標本サンプルを用いて免疫組織学的検討を行うと、タンパク質Xの発現が強いほど膵臓癌の予後が不良であることが明らかになった。
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