膵癌は予後不良な疾患であり、その一因として容易に周囲組織へ浸潤し、極めて特徴的な腫瘍微小環境を形成することが挙げられる。浸潤の機序として、我々はこれまで膵癌の先進部では細胞の腺房-導管異形成(acinar-to-ductal metaplasia: ADM)様変化を認めること、それは通常の膵炎とは異なる表現型を示し、腫瘍浸潤、線維増生に関わること、さらにADM様変化が腫瘍微小環境にもかかわる可能性を報告してきた。本研究では、この機序を明らかにし、腫瘍の局所浸潤を制御するためのターゲット細胞や分子を同定することを目的とした。 昨年度までに、ADM様変化のある腫瘍先進部では血管新生密度が高いことを明らかにし、これが予後低下と相関することを明らかにした。また、ADM様変化のある腫瘍先進部における腫瘍微小環境を検討したところ、腫瘍免疫抑制性の腫瘍関連マクロファージ(CD68陽性、CD163陽性)の増加を認め、この部位でMatrix Metalloproteinase-9(MMP9)が発現していることを確認した。MMP9は、血管新生およびADM形成に関与することが知られている。 今年度は、膵癌組織全体のうち、ADM様変化のある腫瘍先進部においてのみ、CD68陽性マクロファージのみがMMP9を発現していることおよび、それが血管新生密度の高い部位と一致することを明らかにした。 以上の結果より、ADM様変化のある腫瘍浸潤部では、CD68陽性マクロファージがMMP9を介して血管新生を促進している可能性を明らかにし、この結果を査読付き英文論文に報告した。
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