研究課題/領域番号 |
21K20811
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
茂田 啓介 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 訪問研究員 (10649875)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 抗癌剤耐性 / 代謝リプログラミング / 膀胱癌 / グルタミン / ペントースリン酸回路 |
研究実績の概要 |
尿路上皮癌(Urothelial Carcinoma: UC)は米国NCIが示す世界的なcommon cancerの1つであり、泌尿器科癌の中で最も難治性である。難治性UCにおける標準化学療法は代謝拮抗薬Gemcitabine(GEM)+プラチナ製剤Cisplatin(CDDP)(GC)療法が1st lineとして位置づけられているが長期暴露による耐性化が問題である。2nd lineとして登場した免疫チェックポイント阻害薬Pembrolizumab登場後もその生命予後の改善効果は限定的であり、一定の治療効果は得られていない。すなわち薬剤耐性化や免疫治療不応性UCの出現が日常臨床で問題になっており、その後有効な治療が存在しないアンメットメディカルニーズである。 申請者は抗癌剤耐性メカニズムの克服のため過去に多能的機能を付加する糖タンパクムチン1型C末端ペプチド(MUC1C)がCDDP耐性機構に関与する事を報告した。この研究過程で抗癌剤耐性を獲得した難治性UCは自身の細胞内代謝機構をリプログラミングする事で耐性獲得を有している事を発見した。具体的には癌細胞内に大量に取り込まれたグルコースは本来の解糖系/TCA回路ではなく迂回路であるペントースリン酸回路でエネルギー産生を行い、またミトコンドリア内ではグルコースの代わりにグルタミン代謝を亢進させ、本来の酸化的リン酸化とは逆にTCA回路が進行するreductive TCA cycleによりエネルギー産生する事を見出した。この一連の代謝リプログラミング機構の責任酵素としてイソクエン酸デヒドロゲナーゼ2(IDH2)のgain of functionによるHif1-αの活性化であることを発見し、難治性UCにおける代謝リプログラミング機構を明らかにした論文を報告中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前述のとおり、抗癌剤耐性を獲得した膀胱癌2細胞を使用してメタボローム解析を行った結果、グルコースは本来の解糖系→TCA回路ではなく迂回路であるペントースリン酸回路でエネルギー産生を行い、またミトコンドリア内ではグルコースの代わりにグルタミン代謝を亢進させ、本来の酸化的リン酸化とは逆にTCA回路が進行するreductive TCA cycleによりエネルギー産生する事を見出した。 この一連の代謝リプログラミング機構の責任酵素としてイソクエン酸デヒドロゲナーゼ2(IDH2)のgain of functionが、低酸素転写因子Hif1-αの活性化に関与する事で一連の代謝リプログラミングの駆動につながっていることを確認した。 結果、難治性UC内におけるメタボリックリプログラミング機構を明らかにした論文を現在報告中であり、revise実験に差し掛かっている。
また予備的検討として、抗PD1抗体であるPembrolizumabの治療効果予測に癌微小環境と免疫微小環境との関連を確認している。臨床検体が存在するUC214例からペムブロリズマブ治療を行った11例の免疫微小環境を確認したところ、Pembrolizumab奏功群4例では、CD4/8陽性T細胞やCD68陽性マクロファージなどの免疫細胞および癌細胞内のPDL1発現が、組織内IDH2蛋白と逆相関にあることを見出した。一方、Pembrolizumab悲奏功群7例においては、嫌気解糖系酵素群の発現亢進を認めた一方、各種免疫細胞発現は有意に低くimmune-coldの状態であった。上記検討から代謝リプログラミング機構獲得後、免疫細胞との代謝競合が示唆される結果であり、今後の更なる研究の飛躍が予想される結果であった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で行った、抗癌剤耐性獲得膀胱癌における代謝リプログラミング機構、およびIDH2の機能解析が正しければ、抗癌剤耐性癌における新規創薬の起点にもなりうると考えている。 今後の研究方針としては、ヌードマウスを用いて膀胱癌皮下腫瘍モデルを作成の元、IDH2阻害剤を使用したvivo実験を検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は引き続き、研究遂行に使用する。非常に小さい金額のため消耗品費(郵送費)などに充填する予定である。
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