研究課題/領域番号 |
21K20819
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
野村 祥子 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 特別研究員 (40911178)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2024-03-31
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キーワード | 生菌製剤 / がん治療 / デザイナー細菌 / グラム陽性菌 |
研究実績の概要 |
近年、生菌製剤はがん治療薬の新規モダリティとして注目されており、薬効を持つタンパク質の産生機構を搭載したデザイナー細菌の開発などが進んでいる。その中で、使用する細菌種の最適化や候補拡大は重要な検討課題の一つである。本研究では、哺乳類の腸内細菌叢に優位に存在する有機酸分泌細菌をターゲットに、がん治療用生菌製剤として有用な細菌種の候補を拡大し、それらを基盤としたがん治療用デザイナー細菌の開発を目的としている。 今年度は、ヒト腸内細菌叢最優勢菌であるBlautia coccoides (以下B. coccides), Bacteroides vulgatusに着目し、両細菌が腫瘍内に生着可能であることを明らかにした。特にB. coccidesは腫瘍に生着してから2週間で100万倍まで増殖し、本菌が増殖したエリアにはネクローシスが観察された。一方で、その他の主要な臓器には生着せず、投与から7-14日後には腫瘍を除く全身から排除されている事も確認された。 また、本菌を投与後のTNF-a、IL-6、IFN-g等のサイトカイン類の産生は、大腸菌を投与した群と比較して有意に低く、免疫原性の低いがん治療用生菌製剤の候補として先行的に研究されてきたビフィズス菌と同程度であることが分かった。また、体重減少や脾臓肥大といった副作用もごく一時的なものに留まり、長期的な影響は無いものと考えられた。B. coccoidesはグラム陽性菌であることから、投与時の宿主免疫賦活作用が穏やかであったと考えられる。 今年度の結果より、B. coccoidesが新規のがん治療用生菌製剤の候補細菌種として有用であること、グラム陽性菌を使用する事で宿主の免疫応答を穏やかにできることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、乳酸菌・酪酸菌などの腸内細菌をターゲットとして、がん治療用生菌製剤として有用な新規の細菌種候補を開拓し、それらを基盤とした治療用デザイナー細菌を開発することを目標としている。今年度の研究によって、ヒト腸内細菌叢最優勢菌の一つであるBlautia coccoidesのがん治療用生菌製剤としての有用性を見出すことができた。さらに、本菌を投与した時の宿主免疫賦活作用が穏やかであったことから、グラム陽性であることは候補細菌種を開拓する際の有効な選考基準の一つとなり得ることも明らかとなった。 今年度は、デザイナー細菌としての機能化に向けた取り組みはあまり進められていないが、 グラム陽性菌の生菌製剤としての有用性を検証し、実際に新規の株を開拓できたことから、研究はおおむね順調に進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度、有用性が明らかになったBlautia coccoidesの機能化(デザイナー細菌化)にむけて取り組みたい。具体的には、腫瘍局在的に殺細胞効果を発揮するように、環境応答性を付加した遺伝子サーキットを構築する。これらは、まず遺伝子組み換えの手法が容易である大腸菌を用いて実施する。構築した遺伝子サーキットが上手く機能することが実証できれば、次にB. coccoidesに対するシャトルベクターを構築し、実際に本菌による抗腫瘍効果を検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究実績の概要および現在までの進捗状況に記載の通り、がん治療用生菌製剤として有用な新規の細菌種を開拓できたが、それに対するデザイナー細菌化の実施までは至らなかった。 従って、当初遺伝子改変を実施する予定であった予算を執行しておらず、次年度使用額が生じた。 翌年度は、B. coccoidesへの機能化を目標として、抗腫瘍効果を発揮する遺伝子サーキットの構築、B. cccoidesの遺伝子改変に必要なシャトルベクターや試薬の購入に本助成金を使用したい。
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