研究実績の概要 |
本研究では、哺乳動物の腸内細菌叢優勢細菌の中から、がん治療に有用な有機酸分泌細菌を開拓し、それらに外来遺伝子発現系を導入した新規のデザイナー細菌の開発を目指した。これまでに、ヒト腸内細菌叢最優勢菌であるBlautia coccoides (以下B. coccides), Bacteroides vulgatusの二種の細菌が腫瘍内に生着可能であることを明らかにした。特にB. coccidesは腫瘍に生着してから2週間で100万倍増殖し、本菌が増殖したエリアにはネクローシスが観察された。一方で、その他の主要な臓器には生着せず、投与から数日で腫瘍を除く全身から排除されている事も確認された。更にB. coccoidesを投与後の宿主のサイトカイン産生は、大腸菌を投与した群と比較して有意に低く、免疫原性の低いがん治療用生菌製剤の候補として先行的に研究されてきたビフィズス菌と同程度であることが分かった。また、体重減少や脾臓肥大といった副作用もごく一時的なものに留まり、長期的な影響は無いものと考えられた。これらの結果より、B. coccoidesが腫瘍内増殖と低い生体内作用を両立する点で新規のがん治療用生菌製剤の候補細菌種であることが明らかとなった。これらに加え、導入する外来遺伝子としてHSV-TKを選択し、発現評価用のプローブとして131I-FIAUの合成手技を獲得した。また、腫瘍局在的な抗腫瘍効果の為に、温度感受性プロモーターpTlpAによる温度依存的なタンパク発現制御についても検討した。今後は、pTlpA-HSV-TKを発現するB. coccoidesを作製し、実際の抗腫瘍効果などを検証していく予定である。
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