研究課題
癌の分子サブタイプに影響を与えるものとして、癌細胞の遺伝子変異ではなく、転写物レベルでの調節機構があり、ある程度可塑性があることが疑われている。そのため、期間中は、昨年度行っていたオープンソースデータベース解析と合わせて、Basal cell (あるいは扁平上皮系) 分化を伴う腫瘍の可塑性・腫瘍内不均一性といった特徴に特に着目して組織学的検討を行った。申請者は、肺癌を対象として、癌の組織画像における腫瘍細胞のタンパク質発現の分布や間質と腫瘍細胞の空間的分布の関係性を数理学的モデルを作り上げた。モデルには放射線科などの領域で用いられているテクスチャ解析の手法を応用した。その定量値の臨床病理学的意義について検討したところ、現状では、その幾つかが患者の予後予測因子となることが判明しており、同モデルが癌組織の新たな病理学的解釈法となるのではないかと考えている。また、腫瘍内不均一性に関連して、肺腺癌について他の検討も行っている。現行のWHO分類の肺腺癌の組織学的グレード分類は手術材料においては予後をよく層別化できるが、術前の段階で小さな生検材料から腫瘍全体の組織学的グレードが分かれば、手術前に術式の変更あるいは術前治療を考慮することができると考えた。肺腺癌組織は同一腫瘍内において形態像が非常に多彩であることが知られているために、小さな生検検体と手術材料ではグレードが一致しない症例が多い可能性を予測したが、現状では良好な一致率が得られており、生検検体でのグレーディングが有用である可能性を考えている。以上の検討内容については2023年度中に学会発表・論文化の予定である。
4: 遅れている
自身および同僚のコロナウイルス感染のための体調不良と業務の逼迫が重なり、予定通りに研究を遂行することができなかった。そのために細胞株を用いた解析などは難しくなり、病理の基礎に立ち帰り病理組織の解析に集中することとなった。その中でも、画像解析法の知見を得ることで癌組織の新たな評価法を着想し、研究を行った。期間中の研究内容からいくつかは2023年度中に論文化できる見込みである。
病理組織画像の解析を主眼に研究を行う所存である。これまでにあまり着目なされてこなかった癌細胞や癌間質の空間的分布の定量化を試みていく計画である。それにより本課題のテーマである癌の分子サブタイプが決定される病態を明らかにすることができると考えている。
2022年度のコロナウイルス感染による体調不良および業務逼迫のため、研究に遅れが生じた。そのために期間延長を申請しており、2023年度には免疫染色用の抗体・試薬の購入、病理組織画像の取り扱い・解析のために画像用の大容量ストレージ、解析ソフトの購入などに充てる。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Modern Pathology
巻: 36(9) ページ: 100209
10.1016/j.modpat.2023.100209