正常胃上皮幹細胞を標識できる遺伝子改変マウスであるIqgap3マウスと胃癌の発生に関連するRUNX3のmutationを持つ RUNX3(R122C)ノックインマウスを交配して、Iqgap3-RUNX3(R122C)ノックインマウスを作成した。すなわち、このマウスはRUNX3(R122C)の変異を持ちながら、Iqgap3で胃の上皮幹細胞を標識できるマウスである。RUNX3(R122C)マウスから胃組織を採取したあと、組織学的および蛍光免疫染色、オルガノイド培養を実施した。またIqgap3マウスとRUNX3(R122C)マウスを掛け合わせて、フローサイトメトリーにより胃の上皮幹細胞と非上皮幹細胞を分離してトランスクリプトーム解析を行った。6か月齢のRUNX3(R122C)ホモマウスの胃体部組織は、組織学的に前癌状態を呈することが判明した。急速に増殖する胃上皮幹細胞/前駆細胞の増加と分化停止を認めた。フローサイトメトリーから単離した胃上皮細胞のトランスクリプトー ム解析からは、野生型と比較してRUNX3(R122C)マウスの上皮幹細胞では、細胞周期に関連するMYC遺伝子の関連遺伝子群が上昇していることが判明した。in vitroの実験では、RUNX3(R122C)変異は細胞周期の増殖状態(G1)と静止状態(G0)のどちらに入るかを決定する制限点 (Restriction point) の制御を乱し、幹細胞の増殖 (self-renewal)を促す一方で、その分化(differentiation)を抑制していることがわかった。胃上皮幹細胞/前駆細胞の細胞周期が崩れることにより、前癌状態が形成されることが示唆された重要な結果が得られた。以上の研究成果を2022年9月29日に行われた第81回日本癌学会学術総会で口頭発表した。
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