研究実績の概要 |
希少疾患である下垂体神経内分泌腫瘍におけるマルチオミクスと用いた比較的大規模コホート研究は、ほとんど報告がない。そこで、本研究では、希少疾患である下垂体神経内分泌腫瘍(PitNETs)の病態分子基盤の解明とその臨床形質マーカー開発への応用を目的に、154症例の摘出腫瘍検体を用いてRNAseqとプロテオミクス解析および臨床情報との統合解析を実施した。特筆すべき点として、高深度DIA解析・SWATH-MS法を用いたプロテオミクス解析を行い、約20000遺伝子と11000分子の定量的発現評価を可能にし、3’RNA-seqのパラレル解析により、マルチオミクスデータ基盤を構築した。質的評価として、個々のサンプル内の各遺伝子のmRNAとタンパク質の発現量を比較した結果、全てのサンプルでmRNA-タンパク質は有意な正の相関を示した。この結果は、本データ基盤のquality controlが高精度であることを示しており、腫瘍特性や臨床情報との統合解析をするために有用であることを示している。次に、PitNETsの腫瘍特性を明らかにする目的で、RNAseqおよびproteomicsを用いてUMAPのclustering解析を行なった。その結果、腫瘍が正常の下垂体分化の各ステージの特徴を有したグループに分類され、特異的マーカーであるSF1(NR5A1), Tpit(TBX19), Pit1(POU1F1)の発現を観察できた。さらに、各グループの特性を明らかにする目的で、 各々のlineageに特異的に高発現する遺伝子と分子を抽出した結果、非機能性腺腫にSF1(NR5A1)・GATA2, ACTH産生腺腫にTpit(TBX19) ・POMC、GH・PRL・TSH産生腺腫にPit1(POU1F1)の有意な高発現を確認できた。臨床データベースを用いた統合解析において、121症例のGH産生下垂体腺腫を対象にフェノタイプ-ジェノタイプとの関連を調べた結果、GCPR pathwayを介したGNAS変異が先端巨大症の内分泌学的な特徴に影響を与えることを見出した。これらの成果を論文成果として報告した(Communications Biology 5, 1304, 2022).
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