研究実績の概要 |
膵がんは、様々な間質細胞と豊富な細胞外基質から構成される線維性間質を伴った腫瘍を形成し、内部に高度な低酸素・低栄養環境を生じる。膵がんは、こうした低栄養環境で生存するために、膵星細胞や神経細胞から栄養素の供給を受け(Parker & Yamamoto, Cancer Discov 2020; Banh & Yamamoto, Cell 2020)、自身の代謝を改変して適応する(Yamamoto, Nature 2020; Yamamoto, Autophagy 2020; Biancur & Yamamoto, Cell Metab 2021)。例えば、膵原発巣で最も不足しているアミノ酸であるセリンは、通常は細胞外からの取り込みが低下すると、グルコースを基質として細胞内で生合成される。申請者はこのセリン生合成経路酵素の発現がヒト膵がん切除検体と細胞株のそれぞれ約4割で喪失しており、これらセリン生合成酵素欠損膵がんは、膵原発巣内では神経細胞から放出されるセリンに依存して生存・増殖すること、神経新生の阻害により抗腫瘍効果が得られることを発見した。しかし、原発巣と腫瘍微小環境が異なる肝転移巣については、その代謝特性、特にセリン生合成酵素欠損膵がんのセリン獲得経路はこれまで不明であった。 そこで、肝転移近傍に豊富に存在する肝細胞が、転移がん細胞の代謝を支えている可能性を考えた。マウス膵がん肝転移モデルを作成し、担癌肝より肝細胞を単離、RNA-seqにて代謝遺伝子の発現を解析したところ、肝転移を有するマウスでは肝細胞においてセリン生合成酵素の発現が増加していることを見出した。さらに、単離した肝細胞を用いたウエスタンブロットにより蛋白レベルでの発現増加を確認した。また、免疫染色より、転移巣近傍の肝細胞において、特にセリン生合成酵素発現上昇が顕著であることを確認した。
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