研究実績の概要 |
胃癌の主な原因であるH. pylori感染を背景として発癌した胃癌症例の背景胃粘膜を内視鏡的に採取し、用手的に上皮のみを剥離したのち、Alcian Blue染色により、化生上皮と非化生上皮を識別し、それぞれを分離した。それぞれを1腺管単位で分離し、遺伝子変異解析目的に1腺管を1サンプルとした検体を作成し、クローン拡大の解析目的に複数腺管をまとめた検体を作成した。腸上皮化生および非腸上皮化生の1腺管と複数腺管からDNAを、また腸上皮化生および非腸上皮化生の複数腺管からRNAを抽出した。抽出したDNA,RNAをもとに、次世代シーケンサーを使用してDNA配列およびRNA発現量を解析し、得られたゲノムデータを共同研究先の小川誠司研究室のプログラムを用いてコピー数変化を算出した。H.pylori感染の影響を検討するために未感染正常粘膜からも同様の検討を行った。これらにより、H.pylori感染した腸上皮化生腺管は正常粘膜の腺管や非化生腺管と比較して遺伝子変異数が非常に多く、腸上皮化生腺管は分裂を繰り返すことによりそのクローン領域を拡大していることがわかった。また腸上皮化生はおなじ症例においても非化生腺管と比較して遺伝子修復酵素の発現が低下していることが分かった。これらは、同じ炎症背景であるはずの同一症例の胃粘膜内においてもゲノム異常にヘテロ性が見られることを示しており、またその機序として、遺伝子修復酵素の機能低下が関与していること、その影響下にある腺管がクローン性に拡大していることが示唆されるという結果が得られた。
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