研究実績の概要 |
本研究は、現在まで困難とされている「がん患者血液検体を用いての融合遺伝子同定」について腫瘍組織診断と同等、またはそれ以上の精度で同定を進めることで、肺がんや骨軟部腫瘍を含む全がん的な予後改善を目的としている。しかしながら、現状のDNAベースの解析では有効な治療標的、組織診断に用いられる融合遺伝子の同定率は十分ではない。この問題の解決に向けて、血漿中のcell-free RNA (cfRNA)を用いて融合遺伝子解析のプロトコール構築と肺がん、骨軟部腫瘍における臨床的有用性を検討した。cfRNAを用いた高感度の融合遺伝子解析プロトコールを構築するため、微量のRNAから効率の良いcDNA合成、オリジナルプライマーを使用したPCR増幅、シークエンス解析法を検証した。RNA標準品に含まれる、ALK融合遺伝子を微量の1桁コピーまでシークエンスで確認した。その後、臨床サンプルである非小細胞肺がん患者の末梢血血漿を用いて、ALK, ROS1, RETが検出できるオリジナルプライマーを使用し、検証を行なった。治療前またはPD(progressive disease)の非小細胞肺がん患者のcfRNAからは、9症例中7症例で腫瘍組織とブレークポイントを同一とする融合遺伝子を同定した。そのうち化学療法により著名な画像的縮小を認めた症例においては、化学療法後には融合遺伝子を同定しなかった。構築したプロトコールに基づいて、ユーイング肉腫の治療前の末梢血血漿を用いて、腫瘍組織とブレークポイントを同一とするEWSR1-FLI1融合遺伝子を同定した。また治療経過中の血漿でも検証を行い、化学療法奏功後に検出されなくなり、その後、病勢の増悪により再度検出された。cfRNAを用いた融合遺伝子解析プロトコールを構築し、非小細胞肺がん、ユーイング肉腫に対して低侵襲での診断、病勢評価の可能性を見出した。
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