注意欠陥・多動性障害や統合失調症などの精神疾患は、しばしば衝動性の亢進を伴うと報告されている。しかし、衝動性亢進症状の薬物による治療法はまだ限られている。そこで、新規の分子標的を探索するため、D5受容体を完全に欠損させたマウス(D5KOマウス)を用いて、衝動性制御におけるドパミンD5受容体の役割を検討した。また、これらの欠損が衝動性の評価を混乱させる可能性があるため、自発活動や学習・記憶能力も測定した。その結果、D5受容体ノックアウトによるホームケージでの活動への影響は、1日のうち特定の時間帯においてのみ、小さいながらも有意な効果が認められた。また、q-learningモデルを用いた解析では、D5KOマウスは衝動的な行動をとった後の行動適応度が低いことが明らかになった。しかし、D5KOマウスのベースラインの衝動的行動や衝動性抑制薬の効果は、野生型同腹子と同等であることも示された。さらに、他のD5受容体欠損マウスを用いた先行研究とは異なり、我々のD5KOマウスでは、運動活性の低下、ワーキングメモリ障害、重度の学習障害は観察されなかった。これらの結果は、D5受容体が衝動性制御に必要でないことを示すものである。また、D5受容体の行動機能を明らかにするためには、時系列解析や学習過程の詳細な解析が必要であることが示された。以上の結果は、Behavioral characteristics of dopamine D5 receptor knockout miceのタイトルで国際誌に掲載された。
|