研究課題
腫瘍は免疫系からの逃避機構として抑制性の免疫チェックポイント分子を利用しており、抗PD-1/PD-L1抗体といった免疫チェックポイント阻害剤はT細胞を活性化することで効果を発揮する。そのため抗腫瘍免疫においては腫瘍と直接対峙している腫瘍浸潤T細胞が重要である。T細胞の活性化には体細胞変異に由来するネオ抗原が重要であり、これまでに体細胞変異の量的な評価で免疫チェックポイント奏功を予測する試みがなされてきたが、それだけでは不十分であり、ネオ抗原の質的評価が腫瘍微小環境に与える影響を明らかにする必要がある。我々は大腸癌88例のゲノム解析を行い、RNF43の機能喪失型のフレームシフト変異に由来するネオ抗原を患者間で共通して同定した。しかしながら、そのネオ抗原を有する大腸癌の免疫応答が低く、質的に抗腫瘍免疫応答を抑制していることが示唆された。実験的にもそのネオ抗原が機能喪失を通じて逆説的にnon-inflamedな腫瘍微小環境をもたらすことを立証した。さらに、oncogenicな機能を持つdriver変異に由来するネオ抗原は特定のシグナルの活性化や不活化を通じて自身に有利な腫瘍微小環境を導く可能性を想起し、TCGAデータセットを用いてoncogenicな機能を持つdriver変異に由来するネオ抗原はpassenger変異程は抗腫免疫応答を誘導しないことを明らかにした。本研究を通じて我々はネオ抗原を質・量の両面から正確に評価し免疫チェックポイント阻害剤奏功を予測する重要性を提唱した。今後は従来とは異なる方法での質的な評価も加味したネオ抗原同定方法を目指し、免疫チェックポイント阻害剤奏功に有用なバイオマーカーの構築を試みたいと考えている。
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