研究課題/領域番号 |
21K20869
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
池添 浩平 京都大学, 医学研究科, 助教 (90771733)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 特発性肺線維症 / 気道上皮基底細胞 / Ⅱ型肺胞上皮細胞 |
研究実績の概要 |
本研究では、特発性肺線維症(Idiopathic pulmonary fibrosis; IPF)において末梢気道上皮細胞の変性、機能異常が肺線維化形成に必須であり、不可逆的な蜂巣肺形成に先行する主要な初期病態であるという仮説を検証する。本研究では、IPF患者肺組織における末梢気道上皮細胞の構造変化・遺伝子発現と、気道周囲肺実質の 線維化・蜂巣肺形成との関連を検討する。具体的にはまず、IPF患者肺組織を用いて気道上皮細胞を含むマーカーで免疫染色を行なう。更に、IPF肺の種々の程度の線維化領域から、上記マーカーで染色した細胞を採取し、それぞれの特異的な細胞におけるRNA-seq解析を行なう。 予備検討として、まず外科的肺生検または肺移植で得られたIPF患者肺組織3検体のホルマリン固定パラフィン包埋切片において、Ⅱ型肺胞上皮細胞のマーカーであるproSP-C, 気道上皮基底細胞のマーカーであるKRT17, 気道上皮粘液細胞のマーカーであるMUC5Bで蛍光免疫染色を行なった。Pro-SP-C, KRT17は非常に良好に染色されており、Ⅱ型肺胞上皮細胞及び気道上皮基底細胞は明確に同定された。また免疫染色切片とHE染色切片を対比することで、線維化の軽度な領域、高度な領域、蜂巣肺領域等、様々な領域における各マーカー陽性細胞を同定することも可能であった。更に、線維芽細胞巣(Fibroblastic foci)を覆う気道上皮細胞の像など、IPFに特徴的な所見も観察された。 以上よりHE染色と各マーカーによる免疫染色により、本研究の目的である、肺間質線維化の程度と気道上皮基底細胞の関連、さらに各線維化領域における基底細胞とⅡ型肺胞上皮細胞との相互作用も検討可能な段階となったが、MUC5Bの免疫染色については良好な染色結果が得られなかったため、条件検討もしくは研究計画の変更が必要と考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
・予備検討を進めるに当たり、研究施設における倫理委員会の承認が必要であったが、海外の研究施設との共同研究であるため、倫理委員会から承認を得るまでに時間がかかった。 ・本研究は海外の研究施設との共同研究として進めているが、COVID-19の流行があり、研究の進捗が計画より遅れた。 ・本研究計画において、IPFの末梢気道上皮及び、病理学的特徴である蜂巣肺を被覆する気道上皮の粘液細胞に多く発現すると言われているMUC5Bに注目し、IPF肺組織におけるMUC5B免疫染色を施行したが、現時点では良好な染色結果が得られなかった。そのため更に条件検討を重ねるか、研究計画を変更するかを検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画で注目していた蛋白であるMUC5Bの免疫染色において、現在まで良好な染色結果が得られていない。そこで今後の推進方策として、以下の二つの案で計画を検討中である。 案①:MUC5Bに注目し続け、MUC5B免疫染色の条件検討を重ねる。ただし、将来的に空間トランスクリプトーム解析を行なうため、既に予定しているマーカーであるpro-SP-C、KRT17と同時に蛍光免疫染色を行ないたいと考えており、染色過程が複雑になることは避けたい。 案②:MUC5Bに代わって、別のマーカーを選択する。MUC5Bに代わる候補として、Club細胞を選択できるマーカー(SCGB1A1など)や、マクロファージを選択できるマーカー(CD68など)を検討している。IPFの病態として従来からⅡ型肺胞上皮細胞の機能障害は注目されているが、その他に、最近のsingle cell RNA seq解析の研究でIPF特異的な気道上皮基底細胞(KRT5-KRT17+ basaloid cell), あるいはClub細胞(SCGB1A1±MUC5B+ cell, Zuo WL)などが報告されている。またIPF患者の気道や肺胞の構成細胞と免疫細胞の相互作用を検討する際に、マクロファージはまず注目される細胞である。 方向性が定まれば、更なる予備検討として、実際に空間トランスクリプトーム解析を数検体で施行していきたいと考えている。 免疫染色及び遺伝子解析と並行して、臨床で使用している胸部CTを用いた末梢気道構造の検討も行いたいと考えている。当院では脳死肺移植待機中の、IPFを含む進行性線維化性肺疾患症例については吸気・呼気CTを撮影しているため、吸気・呼気CTを用いてAir trappingの指標など、末梢気道病変に関連した指標の解析を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由①:予備検討を進めるに当たり、研究施設における倫理委員会の承認が必要であったが、海外の研究施設との共同研究であるため、倫理委員会から承認を得るまでに時間がかかった。理由②:本研究は海外の研究施設との共同研究として進めているが、COVID-19の流行があり、研究の進捗が計画より遅れた。理由③:本研究計画において注目していたMUC5B免疫染色で良好な染色結果が得られなかった。そのため更に条件検討を重ねるか、研究計画を変更するかを検討中である。 上記理由により研究進捗が遅れているが、免疫染色の結果により研究進捗の目途は立っており次年度(令和4年度)には空間トランスクリプトーム解析を進めていく予定となっている。
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