研究課題/領域番号 |
21K20877
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
森島 徹朗 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 准教授 (10448714)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 認知機能障害 / 糖尿病 / アストロサイト / L-乳酸 |
研究実績の概要 |
本研究は、糖尿病時に見られる認知機能低下における海馬アストロサイトの機能変化の関与を明らかにする一環として、アストロサイトから神経細胞へ供給されるL-乳酸の関与について明らかにすることを目的としている。これまでに、糖尿病マウスでは認知機能が低下していることが新規物体認識試験を用いて明らかにされており、認知機能の低下には海馬における長期増強の減弱が関与していることも報告されている。そこで、本研究では、行動学的解析と電気生理学的解析、分子生物学的解析を用いた多角的解析を用いて検討を行う。 糖尿病マウスに見られる認知機能低下は、ストレプトゾトシン(STZ)により誘発される糖尿病モデル(STZマウス)を用いて評価した。STZマウスで見られた長期記憶形成の減弱については、L-乳酸を脳室内へ処置することで消失した。また、L-乳酸を処置するタイミングを、記憶の固定の際に見られる脳活動が活発になる、訓練試行の3時間後にしても、STZマウスで見られた新規物体への探索行動の減少が消失した。つまり、STZマウスで見られる新規物体認識試験における認知機能の低下は、記憶の固定過程においてL-乳酸が不足しているために生じていることが明らかになった。 次に、L-乳酸によるSTZマウスの認知機能低下の改善については、モノカルボン酸トランスポーター(MCT)の阻害薬である4-CINにより消失した。このことから、L-乳酸が神経細胞もしくはアストロサイトに取り込まれることで、STZマウスの認知機能改善作用を示すことを確認した。また、海馬急性スライスを用いて、STZマウスの長期増強反応の変化を解析したところ、STZマウスでは、高頻度反復刺激により認められる長期増強反応が、対照群マウスと比較して減弱していることを認めた。この結果より、STZマウスでは海馬神経細胞の可塑的変化が起こり難いことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、研修申請書に記載した研究計画に従い順調に進行している。また、電気生理学実験においては、個体ではなく海馬急性スライスを用いた検討を行ったが、行動学的検討の結果を支持する結果が得られている。現在、行動学的解析並びに電気生理学的解析については、引き続き検討を続けており、研究計画書に記載した計画の通り、研究が進行している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進の方策として、行動学的解析の結果をサポートするための電気生理学的検討と分子生物学的検討を行う。また、薬理学的手法を用いて、行動学的評価で認められたSTZマウスの認知機能障害が改善できるか、また、健常マウスの認知機能が、アストロサイトの機能障害により低下するかを、化学遺伝学的手法とアデノ随伴ウィルスベクター(AAV)を用いた遺伝子導入法を用いて、海馬アストロサイトの人為的機能調節手法を用いて検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
引き続き、電気生理学実験と分子生物学実験を行うため、消耗品や抗体、電極などの消耗品が必要である。また、化学遺伝学的手法による人為的アストロサイト機能の調節のために必要なリガンド(クロザピン N-オキシド; CNO)や遺伝子導入に用いるAAVを精製するための消耗品類も必要になる。これらは、年度を通して適宜購入する。
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