Sodium glucose transporter 2(SGLT2)阻害薬は現在糖尿病の有無を問わない慢性心不全の治療薬として承認され、臨床の現場で使用されている。糖尿病性の心不全のみならず、高血圧性心疾患や弁疾患のような心筋への慢性的な機械的負荷によって引き起こされる非糖尿病性の心不全に対してもSGLT2阻害薬が有効であることから、心臓の機械感受性現象に対して何らかの影響を及ぼしていると考え、検証した。 マウスの心筋細胞に急性に伸展刺激を加えると酸化ストレスの一因である活性酸素種(reactive oxygen species: ROS)がただちに増加する現象が以前から知られている。興味深いことに、SGLT2阻害薬を投与することにより、心筋細胞の伸展誘発性のROS産生が抑制されていたことが今回の研究で明らかとなった。 また、これら一連の現象の分子メカニズムを検証したところ、SGLT2阻害薬投与によってSGLTファミリーの一つであるSMIT1(Sodium myo-inositol transporter 1)が抑制されたことにより、その下流にあるPLC(phospholipase C)やNOX2(NADPH oxidase 2)の活性が抑制され、伸展誘発性のROS産生が抑制されたことが示唆された。 以上の結果から、SGLT2阻害薬は心筋細胞のSMIT1の活性を阻害することで伸展誘発性ROS産生を抑制していたことが明らかとなった。SGLT2阻害薬は機械的負荷由来の酸化ストレスを抑制することで、糖尿病性そして非糖尿病性の慢性心不全を改善させることが考えられる。
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