研究課題
過敏性肺炎 (Hypersensitive Pneumonitis: HP)は、抗原の反復吸入および感作によって生じるびまん性肺疾患である。抗原回避や副腎皮質ステロイド投与により速やかに改善する症例も存在するが、線維性HPは特発性肺線維症(Idiopathic pulmonary fibrosis; IPF)と類似する予後不良な疾患であり、有効な治療は確立されていない。喫煙や感染など外的要因、加齢や遺伝子など内的要因が複雑に作用し個体の疾患感受性を規定していると考えられているがいまだ不明な点が多い。本研究は①HP患者における遺伝子多型の頻度、および各遺伝子多型と臨床経過や病理/CT所見との関連を解明すること②肺内においてこれら遺伝子多型がどのような遺伝子発現に関わり、どういった機序で線維化に関わっているのかを解明することを目的とする。研究者はまず米国で集積したHP症例のDNAを用い、IPFに関わる10個のrisk variantsについて健常者との比較を行った。その結果、MUC5B、TERC, FAM13A、 DSP、 ATP11A、IVDの6つのSNPについてHPにおいても発症に関わり、線維性HPに絞ってもTERC、DSP、MUC5B、IVDの4つが発症に関わっていることを解明し、Thorax誌に報告した(Furusawa H et al. Common idiopathic pulmonary fibrosis risk variants are associated with hypersensitivity pneumonitis. Thorax 2022)。現在過敏性肺炎の気管支肺胞洗浄施行症例を集積中であり、一部症例でDNAとRNAの抽出を開始している。今後これらの検体を用い、線維化に関わる遺伝子/遺伝子発現について検討を進めていく予定である。
4: 遅れている
新型コロナ肺炎の影響で入院や気管支鏡検査に制限があり症例の登録が遅れている。当院ですでに気管支鏡検査を行われ検体の保存を同意された症例について、残検体よりDNAとRNAを抽出する計画を開始しており、先日本学倫理委員会に承認された。今後過去検体も用いて研究を進めていく予定である。
当院で気管支肺胞洗浄を施行されたHP患者200例を対照とし、セルバンカーに保存されている気管支肺胞洗浄由来の細胞よりDNA/RNA extraction kitを用いてmRNAとDNAを抽出し、線維化に関わると予想される10個のvariants(MUC5B、DSP、TERC、TERT、IVD、FAM13A、ZKSCAN1、DPP9、OBFC1、ATP11A)の遺伝子を測定する。症例数が十分に集積できるようであれば症例集積後にGWASにより網羅的に疾患と線維化に特徴的な遺伝子を探索する。健常者対照群としては東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)のデータベースを参照する。気管支肺胞洗浄を施行していないHPであってもバイオバンクにDNAが保存されている症例についてはこれを用いる。上記解析により線維化・発症に関わっていると推測される遺伝子について、気管支肺胞洗浄より抽出したmRNAを用い遺伝子発現を行い、臨床情報(予後や肺機能検査、KL-6などの血清マーカー、CT所見など)と比較検討し、有望な遺伝子を同定する。こちらについても十分な症例が集積可能であればRNAシークエンスなどにより網羅的な解析を行う。
症例の登録に遅れが生じたため2021年度中に予定していた遺伝子の抽出や解析が次年度に繰り越しとなった。遺伝子解析・発現解析は収集した検体を一度に測定するという性質上、使用額の繰り越しが生じることになったが、現在症例集積中であり、2022年度中に遺伝子の抽出と解析を行う予定である。
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Respiratory Medicine Case Reports
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