研究課題
【背景】N-acetylneuraminic acid synthetase-congenital disorder of glycosylation (NANS-CDG)は、N-アセチルノイラミン酸(シアル酸)合成に関わるNANSを原因遺伝子とする常染色体潜性遺伝疾患であるが、非常に稀な疾患であるため、臨床所見の詳細は未解明である。また、脊椎骨端骨幹端異形成(SEMD)および成長障害を呈するものの、その発症機序についても未解明である。われわれは、NANS-CDG患者の臨床的特徴を見出すために、同定した患者3例の臨床および遺伝学的所見を詳細に検討し、SEMD発症機序解明のために軟骨由来細胞株を用いて機能解析を行った。【症例】症例1は著明な水頭、SEMD、血小板減少を呈し、Faye-Petersonらにより報告された乳児の臨床所見に合致した。一方、症例2および3はCamera-Genevieveらにより報告されたSEMDおよび発達遅滞を特徴とするNANS-CDGの臨床所見に概ね合致した。【遺伝学的解析】全エクソーム解析により、NANSにおいて、症例1ではc.979_981dup, c.207delが、症例2ではc.979_981dup (ホモ接合性)が、症例3ではc.607T>C, c.133-12t>a(スプライス異常を確認)が同定された。【機能解析】ヒト軟骨由来細胞株C20A4細胞において、siRNA法によりNANS発現をノックダウンすると、COL2A1の発現と細胞表面のシアル化は野生株と同程度であったが、細胞増殖能のわずかな低下がみられた。【結語】本研究と過去の報告により、(1)NANS-CDGの成長障害は生後に明瞭となること、(2)NANSが胎児期および出生後の脳の発達に重要であること、(3)出生時でもSEMDは認識可能で、骨所見は成長と共に変化すること、(4)NANS-CDG患者では血小板減少、血清シアル酸正常低値、血清タンパクの正常なグリコシル化がみられること、(5)NANS-CDGはCamera-Genevieve型と重症型であるFaye-Peterson型に分類できることが示唆される。また、NANS機能低下に伴うSEMDの発症機序には、軟骨細胞の増殖障害が関与すると考えられる。
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