精神科領域において最大の治療効果を有する電気けいれん療法 (electroconvulsive therapy: ECT) の作用機序解明はECTの科学性を高めることでECTの誤解や偏見を減らすとともに、ECTの効果・副作用発現に関わる神経基盤の特定から、即効性と高い有効性を維持しながら副作用の少ない新しい治療法の開発につなげられるため重要である。本研究は人対象の臨床研究から得られた、ECTのMRI海馬体積増大という現象の細胞生物学的基盤を解明するために、マウスにおいてもECTがMRIの海馬体積を増大させるかどうかを調べ、組織学的変化とMRI指標の変化の関連を調べたリバーストランスレーショナル研究である。本研究においては、まず人と同様の週3回のスケジュールで実施した合計9回のECTがマウスの海馬体積増大を引き起こしたことをMRIを用いて示すことに成功した。さらにこの体積増大はECTの回数と正の相関を認め、ECTの回数依存的な変化であることも示した。ECTで体積増大を認めた部位は主にCA1とDGであった。ECTはDGにおける神経新生を促進していたとともに、CA1における興奮性・抑制性シナプス密度の増加、樹状突起の分岐増加、スパイン増生を引き起こしていた。 今後は、神経新生とMRI体積増大の因果関係を調べるために放射線照射マウスの作成、これらの現象と抗うつ効果の関係を調べるために、うつ病モデルマウス作成を行い同様の実験を行う予定である。
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