本研究の目的は、肝硬変を伴う希少疾患患者から同定されたNLRP1点変異P1214Lが肝細胞におけるNLRP1インフラマソームの活性化を亢進させて、肝硬変を引き起こす病態機序を解明することである。DPP9はNLRP1に結合してNLRP1インフラマソームの活性化を抑制するが、この点変異はDPP9とNLRP1の結合を阻害するため、DPP9による抑制が解除されインフラマソームが異常活性化することがインビトロ実験で確認されている。また、患者の肝細胞でNLRP1インフラマソームが活性化していること、肝細胞におけるIL-18・IL-1b(特にIL-18)の産生が亢進することも確認されている。しかし、NLRP1-P1214Lを肝細胞特異的に発現させたマウスを長期間観察しても肝機能障害や肝臓線維化は認められず、肝細胞においてNLRP1インフラマソームが活性化している所見は認められなかった。そこで、肝細胞障害を誘導する種々の薬剤を投与したが、この変異マウスとコントロールマウスの間で有意な差は認められなかった。何らかの感染が肝機能障害の引き金となり、NLRP1-P1214L変異によるインフラマソーム活性化を誘導する可能性があるが、この仮説をマウスモデルで証明するには至っていない。また、肝細胞におけるインフラマソームの活性化が肝臓線維化を誘導する機序を解明するために、NLRP1インフラマソームの粒子を回収し、それを他の細胞株に投与すると、インフラマソームの活性化が伝搬する可能性を示唆する結果が得られた。しかし、NLRP1インフラマソームの粒子が膠細胞を活性化することで線維化が誘導されるか否かは今後の更なる検討を要する。
|