研究課題
高齢白血病患者の予後は不良で、副作用の低減と治療効果の向上を両立する治療戦略が模索されている。近年、抗アポトーシス因子BCL2阻害剤ベネトクラクスとDNAメチル化阻害剤デシタビンの併用療法は有望な治療効果を示し、PhaseⅡ臨床研究まで進行している。しかし、同療法においても15~60%の症例で治療抵抗性が生じる。そのため、治療反応性を予測し、適した患者に適した治療を選別することが課題であるが、患者選択や治療効果を裏付ける分子的基盤は不明な点が多い。本研究では、同臨床研究を目的として採取された治療前後の白血病細胞のプロフェイリングを実施し、治療効果予測マーカーを特定することを目標とする。当該年度の研究では、臨床研究によって採取された検体を用いて、RNA-sequence(seq)解析およびmethylation assayを進めている。まず、サンプルを「新規に急性骨髄性白血病と診断された患者」と治療歴がある「再発もしくは難治性患者」に分類し、それぞれの群でベネトクラクスおよびデシタビン併用治療に奏効したグループと非奏効グループでの遺伝子発現の変調を解析した。RNA-seq解析の結果、新規患者群と再発/難治性患者群では、遺伝子発現パターンに違いがあったことが明らかとなった。新規患者群で治療に奏功しなかったグループは奏功したグループと比較し、エネルギー代謝や細胞接着・細胞輸送に関与している遺伝子の発現亢進が治療前サンプルで認められた。一方、再発/難治性患者群における非奏功グループでは奏功グループと比較し免疫応答関連遺伝子の発現が有意に抑制されていた。さらに、methylation assayでは新規患者群および再発/難治性患者群どちらにおいても非奏功グループでは奏功グループと比較しプロモーターおよびエンハンサー領域が脱メチル化傾向にあることが明らかとなった。
3: やや遅れている
本年度は、「抗アポトーシス因子BCL2阻害剤ベネトクラクスとDNAメチル化阻害剤デシタビンの併用療法」臨床研究において採取された治療前後の患者サンプルを用いてRNA-seq解析とmethylation assayを実施した。新規患者群と再発/難治性患者群では、治療難治性グループでそれぞれ特徴的な遺伝子発現プロファリングを明らかにすることができた。しかし、新型コロナウイルス感染症の世界的流行の影響もあり、研究体制にやや遅滞が発生しており、特に研究者の物理的な交流を自粛している状況である。
近年DNAメチル化酵素(DNMT)阻害剤はがん細胞の内在性レトロウイルス(endogenous retrovirus, ERV)発現を誘導し、ERV由来のdouble strand RNAがインターフェロン応答を引き起こすことが報告されている。このインターフェロン応答がDNMT阻害剤の効きに関与しているのではないかといわれている。そこで、Interferon-stimulated gene (ISG)の発現に特に着目し、治療奏功群、非奏功群での遺伝子発現の変調の解析を進めている。また、これまでのRNA-seqやmethylation assayで得られて知見も踏まえて、治療に影響を与える遺伝子を特定する。候補遺伝子については、validation studyのためin vitroでの検証を予定している。
2021年度には新型コロナウイルス感染症の流行拡大のため、学会発表や海外研究者との意見交流目的の渡航が出来なかった。また、解析目的に当初購入を予定していたパソコンの購入は、windowsの新規バージョンへの切り替えで購入を控えたことから次年度使用額が生じた。今後はパソコンの購入、in vitroでの検証実験に使用する物品を購入予定である。
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Transl Oncol.
巻: 18 ページ: 101354
10.1016/j.tranon.2022.101354.