研究課題
抗アポトーシス因子であるBCL2阻害剤ベネトクラクス(VEN)とDNAメチル基転移酵素阻害剤デシタビン(DEC)との併用療法は高齢者急性骨髄性白血病において有望な治療効果を示した。しかし、一部の患者では効果が限定的であり同治療に対する治療抵抗性を認めている。そのため、治療反応性を予測し、適した患者に適した治療を選別することが課題であるが、患者選択や治療効果を裏付ける分子的基盤は不明な点が多い。本研究では、VEN/DEC治療前後の白血病細胞の遺伝子発現プロフェイリングを実施し、治療効果予測マーカーを特定することを目的とする。治療奏効/非奏効グループのRNA発現パターンの比較解析(bulk RNA sequencing)より、非奏効グループにおいてエネルギー代謝関連遺伝子の亢進や免疫応答関連遺伝子群の抑制が有意にみられることを見いだした。そこで、該当年度は奏効/非奏効グループで有意な発現差を認めた遺伝子群に対し、in vitroでの検証を行った。白血病細胞である4種のcell line、MV4;11、HL60、OCI-AML3、THP-1に対し、VEN/DEC単独もしくは併用で処理し、RT-qPCRにて各候補遺伝子のRNA発現変化およびbisulfite pyrosequencingにてDNAメチル化評価を行った。また、候補遺伝子に対し、レンチウイルスベクターによる遺伝子高発現細胞株を作製し、VEN/DECの感受性を検証した。その結果、脂肪酸代謝に関与するPPARγがDECにより脱メチル化され、発現が亢進することを確認した。また、PPARγの高発現細胞では、細胞増殖スピードは抑制されるもののVEN/DECに対する薬剤感受性は低下していた。これらの結果からPPARγの発現亢進が脂肪代謝を亢進させ、VEN/DECへの抵抗性に関与している可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
「ベネトクラクスとデシタビンの併用療法」臨床研究において採取された治療前後の患者サンプルを用いてRNA-seq解析とmethylation assayを実施した。非奏効グループにおいてエネルギー代謝関連遺伝子の亢進や免疫応答関連遺伝子群の抑制が認められ、特徴的な遺伝子発現プロファリングを明らかにすることができた。興味深いことに尿素サイクルの律速酵素であるASS1の遺伝子発現が治療非奏功グループ群の治療前サンプルで有意に上昇していた。また、methylation assayの結果、非奏功グループ群で、脂肪酸代謝に関与するPPARγのプロモーターが有意にVEN/DEC治療により脱メチル化されることが明らかとなった。In vitroの検証においても、PPARγがDECにより脱メチル化され、発現が亢進することを確認した。また、PPARγの高発現細胞では、細胞増殖スピードは抑制されるもののVEN/DECに対する薬剤感受性は低下していた。これらの結果からPPARγの発現亢進が脂肪代謝を亢進させ、VEN/DECへの抵抗性に関与している可能性が示唆された。これらの遺伝子の機能解析をさらに進め、論文投稿予定である。
前年度に引き続き候補遺伝子を過剰発現させ、VEN/DECに対する薬剤感受性を確認する予定である。また、これまでの研究成果によりPPARγの発現亢進がVEN/DECに対する抵抗性に関与している可能性が示唆された。そのため、PPARγの高発現が白血病細胞のエネルギー代謝に変調を与え、治療抵抗性に関与していると仮設を立て、エネルギー代謝(酸化的リン酸化、脂肪酸β酸化、解糖系)の変化をExtracellular Flux Analyserを用いて解析し、該当遺伝子の機能解析を行う。また、single cell RNA sequencingの解析も同時に進行しており、bulk RNA sequencingで見出された「非奏効グループでの免疫応答関連遺伝子群の発現抑制」がどのように治療抵抗性に関与しているのかを明らかにするために白血病細胞および免疫細胞 (T細胞、NK細胞)での活性化遺伝子発現を検出・検証する。
2022年度も新型コロナウイルス感染症の影響が残存しており、学会発表や海外研究者との意見交流目的の渡航を見送った。前年度より繰り越した研究費に関しては、in vitroでの検証実験に使用する物品を購入予定である。また、論文作成にも取り掛かっており、英文校正および投稿料にあてる予定である。
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