研究課題/領域番号 |
21K20918
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研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
栗原 和生 浜松医科大学, 医学部, 助教 (40907961)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | アトピー性皮膚炎 / レジデントメモリーT細胞 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、アトピー性皮膚炎(AD)病変部における病原性T細胞の同定とその活性化制御機構の解明である。ADにおける炎症性サイトカイン(タイプ2サイトカイン)の産生源として、種々の動物実験や近年の臨床サンプルの大規模網羅的解析からは、AD病変部において、自然免疫系細胞様機能をもったT細胞(病原性T細胞)の存在・その病態での意義が注目されつつある。従って本研究によりヒトAD病態における病原性T細胞の詳細な機能解析が進み、そこから病原性T細胞の機能制御や生存維持機構の解明・制御が可能となれば、全く新しい観点からのAD治療法開発への展開も期待される。 本研究では、アトピー性皮膚炎(AD)患者皮膚T細胞を用いた解析として、まず病原性T細胞候補サブセットの同定を行った。AD患者の皮膚生検余剰組織を用い 、T細胞を培養・増殖させた。培養は、抗CD3/CD28抗体、IL-2入りcRPMIにて約2週間行い、培養後、フローサイトメトリーにて各種T細胞サブセットの割合・細胞数やタイプ2サイトカインを中心とした、炎症性サイトカインの発現を解析した。 その結果、AD病変部の表皮や真皮にレジデントメモリーT細胞(TRM)のサブセットであるCD103を発現するT細胞が多くみられた。TRMはメモリーT細胞の1分画で、いったん組織に移行した後循環することなく皮膚などの非リンパ組織に長くとどまり続ける性質を持つ。そのため、TRMがAD病変の治療抵抗性や再燃に深く関わっていると考えられた。また、TRMが表皮肥厚に関与するIL-22を産生しており、IL-22産生CD103陽性CD8陽性TRMの割合と病変部の表皮肥厚と正の相関がみられ、TRMが表皮の増殖や活性化に関与している可能性を見出した(Kurihara K et al, J Dermatol, 2022 in press)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在までにAD患者は30例、対象疾患、コントロールとして乾癬患者は3例、健常組織は1例組織を集積し、組織から取り出したT細胞を培養して冷凍保存ストックを蓄えた。フローサイトメトリーにて各種T細胞サブセットの割合・細胞数やタイプ2サイトカインを中心とした、炎症性サイトカインの発現を解析し、病理組織学的検査も行った。 その結果、AD病変部の表皮や真皮にレジデントメモリーT細胞(TRM)のサブセットであるCD103を発現するT細胞が多くみられた。TRMはメモリーT細胞の1分画で、いったん組織に移行した後循環することなく皮膚などの非リンパ組織に長くとどまり続ける性質を持つ。そのため、TRMがAD病変の治療抵抗性や再燃に深く関わっていると考えられた。また、TRMが表皮肥厚に関与するIL-22を産生しており、IL-22産生CD103陽性CD8陽性TRMの割合と病変部の表皮肥厚と正の相関がみられ、TRMが表皮の増殖や活性化に関与している可能性を見出した(Kurihara K et al, J Dermatol, 2022 in press)。 その後、T細胞からのサイトカイン産生誘導刺激候補因子として、アラーミン(掻破などの刺激により皮膚から産生される因子)と呼ばれる一群のサイトカイン(IL-33、TSLPなど)を用いてT細胞を刺激し、病原性T細胞のアラーミンへの反応性、サイトカイン産生能を評価し、これらの活性化誘導因子・条件を明らかとしていく予定であったが、現時点ではアラーミンのみではT細胞が上手く刺激できていないため、培養条件や刺激条件を変更し、よりよい方法を模索している最中である。
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今後の研究の推進方策 |
T細胞からのサイトカイン産生誘導刺激候補因子として、アラーミン(掻破などの刺激により皮膚から産生される因子)と呼ばれる一群のサイトカイン(IL-33、TSLPなど)を用いてT細胞を刺激する。TRMなど病原性T細胞のアラーミンへの反応性、サイトカイン産生能を評価し、これらの活性化誘導因子・条件を明らかとする。 現時点では、アラーミンのみではT細胞が上手く刺激できていないため、培養条件や刺激条件を変更し、よりよい方法を模索しているところである。アラーミンでの刺激が上手く導入できた後、TRMなど病原性T細胞の表現系やT細胞受容体レパトアなどをフローサイトメトリーにて解析を行う。細胞数が十分に採取できれば、セルソーターを用いてTRMなどの病原性T細胞を分離し、RNA sequenceによって網羅的機能解析を行う。 さらには、TRMなど病原性T細胞の表現系解析から得られたマーカーを用いて免疫染色を行うことで組織学的病勢(表皮の肥厚程度)や、臨床的病勢(痒み、 皮疹重症度スコアなど)との関連について明らかとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
アラーミン(掻破などの刺激により皮膚から産生される因子)と呼ばれる一群のサイトカイン(IL-33、TSLPなど)を用いてT細胞を刺激し、病原性T細胞のアラーミンへの反応性、サイトカイン産生能を評価し、これらの活性化誘導因子・条件を明らかとしていく予定であったが、アラーミンのみではT細胞が上手く刺激できず前年度は進捗状況が悪かった。現在、培養条件や刺激条件を変更し、よりよい方法を模索しているところであり、アラーミンでの刺激が上手く導入できた後、次年度にTRMなど病原性T細胞の表現系やT細胞受容体レパトアなどをフローサイトメトリーにて解析を行う予定である。また、細胞数が十分に採取できれば、セルソーターを用いてTRMなどの病原性T細胞を分離し、RNA sequenceによって網羅的機能解析を行う。
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