研究実績の概要 |
本研究の目的は、アトピー性皮膚炎(AD)病変部における病原性T細胞の同定とその活性化制御機構の解明である。ADにおける炎症性サイトカイン(タイプ2サイトカイン)の産生源として、種々の動物実験や近年の臨床サンプルの大規模網羅的解析からは、AD病変部において、自然免疫系細胞様機能をもったT細胞(病原性T細胞)の存在・その病態での意義が注目されつつある。従って本研究によりヒトAD病態における病原性T細胞の詳細な機能解析が進み、そこから病原性T細胞の機能制御や生存維持機構の解明・制御が可能となれば、全く新しい観点からのAD治療法開発への展開も期待される。 本研究では、アトピー性皮膚炎(AD)患者皮膚T細胞を用いた解析として、まず病原性T細胞候補サブセットの同定を行った。AD患者の皮膚生検余剰組織を用い 、T細胞を培養・増殖させた。培養は抗CD3/CD28抗体、IL-2入りcRPMIにて約2週間行い、培養後、フローサイトメトリーにて各種T細胞サブセットの割合・細胞数やタイプ2サイトカインを中心とした、炎症性サイトカインの発現を解析した。 その結果、AD病変部の表皮や真皮にレジデントメモリーT細胞(TRM)のサブセットであるCD103を発現するT細胞が多くみられた。TRMはメモリーT細胞の1分画で、いったん組織に移行した後循環することなく皮膚などの非リンパ組織に長くとどまり続ける性質を持つ。そのため、TRMがAD病変の治療抵抗性や再燃に深く関わっていると考えられた。また、TRMが表皮肥厚に関与するIL-22を産生しており、IL-22産生CD103陽性CD8陽性TRMの割合と病変部の表皮肥厚と正の相関がみられ、TRMが表皮の増殖や活性化に関与している可能性を見出した(Kurihara K et al, J Dermatol, 2022)。
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