心臓手術中に摘出した左心耳サンプル(76例)を用い組織学的な検討を実施した。また、同意の得られた対象患者には心臓手術前に歯科診察を受診してもらい、歯周炎の状態を臨床的に評価した。その結果、アザン・マロリー染色で定量化した左心耳組織の線維化面積と、臨床的な歯周炎の所見(プロービング時出血,歯周ポケットの深さ,歯周炎症表面積)が正に相関することが明らかになった。また、この関連は交絡因子(年齢、BMI、生活習慣病など)を補正後も同様に認められた。心房線維化は心房細動の病態生理に深く関与している。よって、本研究成果は、歯周炎が心房細動のリスク因子となることを強く示唆している。心房細動は心不全、心原性脳塞栓症の原因となり、その発症、重症化予防は国民の健康寿命増進に大きく寄与する。現在、高血圧、糖尿病、睡眠時無呼吸、喫煙、飲酒などが、心房細動の修正可能なリスク因子としてガイドライン収載されているが、歯周炎と心房細動の関係は未だ解明されていない。私は先行研究で、歯周炎のサロゲートマーカーである口腔内細菌の血漿抗体価がカテーテルアブレーション治療後の心房細動再発に関与することを報告している。本研究成果は先行研究結果と共に、歯周炎を心房細動の修正可能なリスク因子として確立するための基礎的な科学的根拠となるもと考えられる。
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