研究実績の概要 |
脂質異常症は動脈硬化性疾患の発症・進展の主要な要因である。その中で最も重篤な家族性高コレステロール血症(FH)は、全世界で3400 万人患者がいるものの、高用量スタチンやPCSK9阻害薬等の多剤併用療法にも十分な治療効果が得られない症例や、スタチン不耐性のため選択できる薬剤が限定されている症例が存在する。透析患者においては、高トリグリセリド(TG)血症に対して治療薬がないことも、臨床の現場では問題になっている。 これらの脂質異常症に対する新規治療法開発が急務である。現在、新たな治療標的として、TG とLDLコレステロール代謝を共に制御するANGPTL3が世界的に注目されている。申請者はANGPTL3を標的とした脂質異常症改善ワクチンを開発し、マウスでのPOCを得た (Cell Reports Medicine 2021., 基本特許: 特願2021-84971. PCT/JP2022/20850)。 本発明ワクチンによる治療が、重篤な家族性高コレステロール血症モデル動物であるApoe欠損マウスに対して、脂質異常症および動脈硬化症の改善効果を示した。また、野生型マウスを用いた本ワクチンの持続性評価では、2週間おきの3回接種により、治療開始時から60週まで抗体価および脂質改善作用が保たれていた。さらにbooster接種により105週目まで抗体価が保たれていた。この期間には、明らかな副反応は認められなかった。身体的苦痛の軽減に寄与し、経済的負担の軽減も期待される。本申請研究は、多くの治療が困難な脂質異常症に対する効果的かつ安価な薬剤提供を実現するためのスタートアップと位置付けられる重要な研究基盤となる。
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