進行した心不全の治療は困難であり、低下した心臓機能を回復させることはできない。それは、心筋組織を再生するのに十分な分裂能力を心筋細胞が持っていないことが原因と考えられている。我々はこれまでに、ヒストン修飾H3K9me3が心筋細胞の分裂制御において重要な役割を果たしていることを明らかにしており、H3K9me3により制御される遺伝子を複数同定した。本研究は、これらの候補遺伝子の機能解析を行い、H3K9me3が心筋細胞の分裂を制御するメカニズムの解明と、心臓再生治療へ応用につなげることを目的としている。 2021年度は、マウス初代培養心筋細胞(NCM)にAAV9ベクターを使い遺伝子導入を行うための予備試験を行った。しかし、NCMへの遺伝子導入効率が非常に悪く、候補遺伝子の機能評価を行うモデルとして、2022年度はC2C12培養細胞を利用することにした。C2C12細胞では、細胞周期の逸脱を伴う骨格筋分化を誘導することができる。C2C12の分化誘導条件下で、候補遺伝子の発現変動がどのように変化するかqPCRにより確認すると、Csdc2が心筋細胞と同様な細胞周期の逸脱とともに発現が上昇パターンを示した。そこで、ドキシサイクリン(DOX)処理依存的にCsdc2の発現およびノックダウンを誘導できるベクターを作成し、C2C12の分化に伴う細胞周期逸脱に関与するかどうかを検討したが、Csdc2の発現誘導もノックダウンもC2C12の分化において、細胞周期制御には影響を示さなかった。現在さらに候補遺伝子のうちPeg3、Elf4、Tcf19ついても同様の細胞株を作成し、細胞周期制御に対する影響を検討している。また、AAV9はin vivoではマウスの心筋細胞に効率よく遺伝子導入できることを確認できたのでin vivoでの機能解析も並行して進めており、心筋細胞に有糸分裂を誘導できる因子を発見している。
|