癌の浸潤・転移には、エクソソームと呼ばれる細胞外小胞が関わる細胞間情報伝達機構が重要な役割を果たしていることが、ここ10年ほどで分かってきた。近年抗PD-1抗体製剤が、上咽頭癌を含む頭頸部癌において承認されたが、その奏効率は期待を下回っている。他の癌種において薬剤耐性機構へのエクソソームへの関与が報告されており、上咽頭においても同様に、その薬剤耐性機構に、エクソソームが関与していることが予想される。本研究は、上咽頭癌におけるエクソソームへのタンパク分泌機構に着目し、抗PD-1抗体製剤耐性の機序を解明し、新規バイオマーカーおよび治療標的を探索することを目的とする。 令和4年度も、主に培養細胞系における解析を継続した。上咽頭癌細胞株および、上咽頭上皮細胞株を用いて解析を行った。既に上咽頭癌モデルにおけるエクソソームへのタンパク輸送への関与が報告されているUCH-L1およびそのファルネシル化に着目した。これまでに実績のある低分子阻害剤である、LDN-57444およびFTI-277の他、近年頭頸部癌領域において抗腫瘍効果が報告されている、Tipifarnibも用いた解析を行った。それぞれ上記細胞株を用いた実験系において、細胞のタンパク発現やエクソソームの分泌量の測定などを行った。それらの解析の結果、ファルネシル基転移酵素阻害剤によりエクソソームの分泌が抑制されること、ならびにPD-L1の発現を抑制する可能性があることが示された。これらの結果により、ファルネシル化がエクソソームの形成機構、特にPD-L1陽性エクソソームの形成機構に関与していることが示唆された。
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