研究実績の概要 |
本邦で肺移植のドナー不足は深刻な問題である。近年,心停止ドナー(DCD)からの肺移植が諸外国で行われるようになった。uncontrolled DCD(院外で心停止し心肺蘇生後も蘇生せずに死亡した患者をドナーとする, uDCD)は,脳死ドナー肺移植と比較して温虚血時間が長期になるため,肺保護が肺障害抑制において重要となる。現在,肺保護法として冷却法と拡張法が実施されているが,uDCD肺の使用率は10%と低く,より優れた新しい肺保護法が望まれる状況である。本研究では,我々が考案した新しい肺保存法(冷却拡張法)と従来の冷却法および拡張法とを比較検討した。ドナーとなるブタの肺を心停止後にそれぞれの方法で保護処置を加え,保護終了後の左全肺をレシピエントとなるブタに移植する実験であり,冷却拡張法群・冷却法群・拡張法群をそれぞれ5例ずつ行い,比較検討する研究モデルである。 現時点で,冷却拡張法群4例・冷却法群3例・拡張法群3例の実験を完了している。現在まで行った実験において,組織学的評価および生理学的評価を行い,以下のような結果を得ている。 ①細胞死数の比較(TUNEL testを使用)において,冷却拡張法群では拡張法群と比較して,細胞死数が有意に少ない。また,病理診断医によるLung Injury Scoreの組織評価において,冷却拡張法群では冷却法群・拡張法群と比較して,Scoreが低い(肺障害度が小さい)傾向にある。 ②移植後の血中酸素分圧において,冷却拡張法群では冷却法群・拡張法群と比較して,酸素分圧が有意に高い。 以上のような結果に基づき,冷却拡張法は冷却法・拡張法よりも優れた肺保護法となり得ると考えており,引き続き実験を行い比較検討していく予定である。
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