心肥大抑制作用のある薬剤の報告は散見されるが、実臨床の場で用いられている薬剤は 少ない。麻酔科領域では悪性高熱症の治療薬として確立されたダントロレンだが、その機序や働きに関して明らかになっていない部分も多い。心不全においても、ミトコンドリア機能がその病態生理に深く関与していることが示唆されているが、ダントロレンがミトコンドリア機能にどのような影響を与えるか、また細胞内のカルシウムダイナミクスとミトコンドリア機能の関連については未知である。 近年、すでにヒトでの安全性が証明されている既存薬の新たな薬効を見つけだし、別の疾患の治療薬としての可能性を探る「ドラッグ・リポジショニング」という研究手法が注目されている。ダントロレンのミトコンドリア機能に与える影響を知ることは、細胞内でミトコンドリアの果たす役割の大きさを考え合わせると、虚血性心疾患など他の心疾患の治療薬への応用の可能性もある。 Shamモデル、心肥大モデルマウス、ダントロレン投与モデルそれぞれの心臓から細胞を取り出した。これを利用しミトコンドリア膜電位をJC-1 assay にて蛍光検出し、ミトコンドリア染色色素(MitoTracker)、光褪色後蛍光回復法(FRAP assay)を用いて各群のミトコンドリアダイナミクス(ミトコンドリアの分裂と融合)を明らかにした。分裂・融合タンパクについてイムノブロット・real-time PCRを用いて調べることで、ミトコンドリアの融合タンパクであるOpa-1 がダントロレン投与モデルで有意に増加することを明らかにした。
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