研究課題/領域番号 |
21K20955
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
田村 公二 九州大学, 大学病院, 助教 (90909582)
|
研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
|
キーワード | 大腸癌 / de novo癌 / microbiome / 腸内細菌叢 |
研究実績の概要 |
大腸癌の発癌に関して、adenoma-carcinoma sequence(ACS)とは別のde novo発癌経路が認識されるようになった。本研究の目的は、腸内細菌叢だけでなくde novo大腸癌の発癌や進展様式、さらには転移に関わる腫瘍内や腫瘍微少環境のmicrobiomeを網羅的に解析し、治療法の開発や究極的には発癌予防の解明につなげることである。癌腫自体と癌微小環境におけるmicrobiomeのみならず、シングルセルRNAシークエンス(scRNAseq)を用いて、その不均一性にも着目しつつ計画を進めていく予定である。 当研究室においては複数の種類の固形癌の手術標本を対象にscRNAライブラリー作成を行い、NGS解析を開始している。NGS解析後のデータは、Rパッケージ Seuratを用いて単一細胞由来のRNA発現からその細胞集団の特徴や機能に着目し、解析を行った。細菌叢解析に関しては、ヒト膵癌切除組織から抽出したDNAを用いて、細菌特有の16SrRNA領域プライマーによるPCR増幅を行い、癌組織中の細菌の存在を示した。ヒト膵癌組織や肝転移巣の切除組織を用いてNGSによるメタゲノム解析を進める予定である。 大腸癌に関しては、scRNAseq解析のため、手術を行った家族性大腸腺腫症由来大腸癌の患者の摘出標本から、腫瘍部、腺腫非密生部、腺腫密生部、正常粘膜部、リンパ節を採取し単一細胞懸濁液作成、ライブラリー作成を行った。現在、検体採取部位別に比較しながら、上皮細胞、腫瘍微小環境構成細胞について解析を進めている。さらに通常型大腸癌のpublic dataとの比較を行い検討してる。 実際、本研究の主題であるde novo癌症例数が少ないのが現状であるが、大腸癌患者の手術組織、便・血液検体の収集は開始しており、上述の細菌叢解析やscRNAseq解析の実験手技・解析方法は確立されつつある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
腸内細菌叢解析に関して、現在研究室として他の固形癌、特に膵癌に対しての研究を進めており手技・実験系の確立を行っているところである。また、シングルセルRNA解析についても、胃癌や食道癌、大腸癌を含む複数の種類の固形癌の手術標本を対象にNGSで解析を進めている。他の固形癌での実験手技・解析手法は徐々に確立できているが、大腸癌に関しては一部、上述のように進んでいるものの、de novo癌に関しては現在データ回収・サンプル収集の段階で、やや遅れている。 他の癌腫で安定してデータが得られるようになれば、実験手法自体は胃癌、食道癌でのものが適応可能と考えられ、スムーズに解析を進めることができると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
上述のmicrobiomeやシングルセルRNAシークエンス(scRNAseq)解析の実験手技・解析方法は確立されつつある。大腸癌患者の手術組織、便や血液検体の収集は開始しており、検体が集まり次第そちらも解析を開始する。予想以上にde novo癌切除症例が少ないこと、臨床的にde novo癌の診断自体が困難な場合が多いこと、が課題として挙げられる。今後の検体の蓄積状況によっては長期化する可能性がある。その際は一旦方向転換して、家族性大腸腺腫症由来大腸癌の発癌や炎症性腸疾患患者における発癌経路解明などへの計画変更も考慮しうる。 1.患者由来癌組織および背景正常組織中のmicrobiome 2.大腸癌組織の分子異常解析 3.発癌・進展の鍵となる細胞集団の同定のための単一細胞レベルでの解析、を計画書通りに進めていく予定である。 検体数蓄積後に、まずは便サンプル、手術検体などからのDNA抽出、細菌叢解析を行う。また手術標本より組織を採取し、scRNAseqのための大腸組織に最も適する単一細胞懸濁液作成プロトコルを確立する。上記が確立でき次第随時ライブラリー作成を開始し、胃癌や食道癌で得られた手法や知見を活かしてデータ解析を行う。さらには、癌そのものだけでなく癌微小環境のheterogeneityについてさらに追求する。解析にて治療抵抗性や癌免疫寛容などに関わる細胞集団が同定できれば、同定した細胞集団と癌細胞との相互作用や、細胞集団が癌細胞の遊走・浸潤能をはじめとする浸潤、転移に及ぼす影響などをin vitro, in vivo実験で検証できると考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
de novo癌切除症例が少なく、サンプル収集が遅れているため。次年度は他の大腸癌等を含めて研究を進めるため、検体採取用キットなどの研究用器材、シングルセル受託解析の費用に使用予定である。
|